第五回講義  §5 分裂生成、フィードバック



1、 グレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson)の経歴
 イギリスの生物学者ウィリアム・ベイトソンの三男として生まれる。父の教えるケンブリッジ大学で生物学を修める。大学院は文化人類学に進み、ニューギニアの原始林への旅に出る。
 二度目のニューギニア(1932ー1933)でマーガレット・ミードと出会い、1936年マーガレットの三番目の夫となる(1950年離婚)。『ナヴェン ・・ 三つの視点から引き出されたニューギニア一部族分化の合成図が示唆する諸問題通覧』(1936)マーガレットとの共著『バリ島の性格 写真による分析』(1942)
 終戦まもなく、ウィーナー、ノイマン、マカラックらのメンバーとともに、史上初のサイバネティクス学会をひらく。
1948年、ハーバード大学客員教授の職を解かれた後は、カリフォルニアに渡り、精神科医ジャーゲン・ルーシュとチームを組む。その成果は、ルーシュとの共著『コミュニケーション ・・ 精神分析の社会的マトリクス』(1951)
1960年代には、ナチュラル・ヒストリーの研究に戻る。
1972年に30数年間の主要論文を『精神のエコロジーへのステップ』(Steps to an Ecology of Mind)にまとめる。
 「精神のエコロジー」というのは、精神を主観の内部に想定するのではなくて、主体と環境との関係(コミュニケーション)の中にみる、ということである。

2、二者関係の3パターン("Contact and Schismogenesis)
 ベイトソンは、初期の人類学研究において、二つの文化が出会ったときに何が起きるかを研究し、二つの文化が融合してしまわない場合にとる関係を三つの類型に分けている。これは個人間の関係にもあてはまるものであり、次のようなものである。
 1、対称的symmetrical関係(互いに憎しみ合う、互いに愛し合う、等)
    「このカテゴリーに属するのは、二つの集団A,Bにおいて、メンバー     の願望や行動パターンは同じであるが、パターンの方向性において分     化が起こる全ての事例である。」{「完全な融合」では行動パターン     に加えて、パターンの方向性も同じなのである。}
 2、相補的complementary関係(支配と隷属、陳列と鑑賞、保護養育と弱さの表現等)
    「このカテゴリーにおさまるのは、二つの集団のメンバーの願望や行動     が根本的に異なる全ての事例である。」
 3、互換的reciprocal関係(相補的関係において両者の役割が転倒する場合)
    これはいわば役割交換である。ものの交換においてもそれが同時に行わ    れるのでないときには、与える者と受け取る者との役割交換が行われて    いるといえる。それが同時に行われるとき、つまり契約の時には、役割    交換が同時に行われていると考えられるから、全ての交換は役割交換で    ある。

   例えば、碁や将棋、野球やアメリカンフットボールは、攻撃と守りが交替   するので、互換的なゲームである。これに対して、ボクシングやプロレス   は攻撃と守りが時間的に区切られておらず、対称的なゲームである。また   ポーカーや双六は、攻撃と守りの区別がないが、役割が交替するので、    互換的なゲームである。親と子の区別のあるゲームは、相補的なゲームで   ある。

 これらの中で1と2では、互いに一方の感情と行動が他方の感情との行動をエスカレートさせ、関係が極端化し、その関係自身の崩壊にまで到ることがあり、そのような場合を、ベイトソンは「分裂生成」と名付けている。3の場合には分裂生成に到る前に役割の転倒が起きるので、分裂生成は生じない。
 我々の社会はこの分裂生成を防ぐための様々のメカニズムを用意しているはずである。また二つの文化の間にも、それらが完全に融合せず、また関係が崩壊しもしないためには、分裂生成を防ぐメカニズムが設定されなければならない。

3、分裂生成の類型
(1)対称的分裂生成の二つの型
 分裂生成とは、その関係が自己破壊を起こすことを意味しているが、これには二つの型がある。
(a)相互破壊型 憎しみの関係は互いに相手の憎しみを増幅させる結果となり、もしその増幅を抑制する因子がなければ、最終的には殺し合になる。つまり両者の
関係が消失するのである。(殺し合うことの無い動物には、どの様な抑制因子が働いているのだろうか。)従って、この関係は両方ないし一方の死によって終わることになる。この型に伴う感情は、憎しみだけである。
(b)収束転換型 これは相補型への転換と互換型への転換に区別できる。
 恋愛の場合、愛されることによって相手に対する愛情が増し、互いに対する愛情は、もしそれを妨げる因子がなければ、増加し続ける。しかし感情には、限界があり、この感情はどこかで高原状態にはいる。愛し合う肉体行為にも生理的な限界があり、また他の仕方で奉仕したり贈与する行為にも資力の限界があり、高原状態にはいるか、或はどこかで減少し始めることになる。こうして、この関係はもはや対称的ではなくなる。ここでは、両者の関係自体が消失するのではなくて、対称的な関係が変質するのである。これはおそらくなんらかの相補的な関係に転換するだろう。なぜなら、これが相互破壊型の対称的関係に変化することはないし、また別の感情収束型の対称的関係に変化するとも考えにくいからである。
(2)相補的分裂生成の二つの型
(a)一方破壊型 例えば、攻撃服従型、その他
   食物連鎖における食べるものと食べられるもの
   食べることによって、繁殖し、ますます多く食べ、ますます繁殖し、ます   ます多く食べ、ついに餌がなくなる場合。
(b)収束転換型 例えば、保護依存型、その他
   食べることによって、繁殖、ますます多くたべることによって、餌が少な   くなり、餌が足りなくなることによって、繁殖がついに停止する。

 このような分裂生成は、正のフィードバックと呼ばれているものである。

(3)互換的なパターンは、内部的に緊張が補い合われバランスがとられるために、分裂生成に発展しない。

4、フィードバック
負のフィードバック・システム
  出力が増大すると、入力を減少し、 
  出力が減少すると、入力を増大する
      結果:出力が一定の状態の安定するシステム
      事例:サーモスタット、生物のホメオスタシス。
正のフィードバック・システム(「分裂生成」ベイトソン)
  出力が増大すると、入力を増大し、 
  出力が減少すると、入力を減少する 
      結果:暴走して自己破壊をおこすシステム
      事例:軍拡競争、バブル時の株価、地価などの上昇、受験戦争
         予言の自己実現、戦い、相思相愛、

このようなフィードバックは、現実の自然現象、生理現象にもつねに生じている。人間の現象、社会現象の場合に、特徴的なのは、それらが認識を媒介にしたフィードバックであるということだ。

予言の自己実現は、予言と現実がポジティブ・フィードバックの関係にある。
予言の自己破壊は、予言と現実がネガティヴ・フィードバックの関係にある。

事例 落ち込みの分裂生成
    つまらない講義の分裂生成
勉強が手につかない分裂生成

多文化社会の構築にとって、この議論は重要である。