1998年度 大阪大学文学研究科・文学部 講義
 
  

       ドイツ観念論の実践哲学研究(1)        
        第一回 講義ノート
 
 

 
 

            講義計画
シラバス
前期:ドイツ観念論の実践哲学研究(1)
 ドイツ観念論の実践哲学について、特にフィヒテの他者承認論を『自然法論』『道徳論』を中心に紹介・検討します。それは、彼の知識学、道徳論、国家論の検討にもなります。指摘されることの少ない、カントの道徳論や法論とフィヒテのそれらの差異を明らかにすること、彼のジャコバン主義と民族主義との関係、知識学と実践哲学との関連などを論じる予定です。

後期:ドイツ観念論の実践哲学研究(2)
 ドイツ観念論の実践哲学、特にヘーゲルの他者承認論を中心に論じる予定です。フィヒテの他者論との異同、イエナ期における他者承認論の展開、『精神現象学』での相互承認論、『法哲学』における「人倫性」概念、国家論における承認の問題などを論じます。これを踏まえつつ、現代における相互承認論の可能性を考えてみたいとおもいます。

                
講義の目的

  1. 1、この講義の第一の目的は、ドイツ観念論の中の理論的に面白くかつ発展させ  られそうな論点を探して、それを明確にし、発展させることです。
  2. 2、第二の目的は、そのような試みをいくつか重ねながら、私のこれまでの研究  にとりあえずのまとまりを与えることです。
  3. 3、最後の目的は、ドイツ観念論の実践哲学を全体としてどうとらえて、西洋近  代思想史の中にどのように位置づけるか、ということに関して、現在の私な  りの提案を行うことです。
序論
§1 「ドイツ観念論」という名称は、いつからか。
(1)大橋良介の指摘
(参照、大橋良介「ドイツ観念論の全体像」(『総説・ドイツ観念論と現在』ミネルヴァ書房)

最も初期の用例は、つぎのようなものである。
 

(*)リュートゲルト『ドイツ観念論の宗教とその終えん』(1922)
    W.L{tgert, Die Religion des Deutschen Idealismus und ihr Ende, 3 Bde.,  1922-1925.

(*)ニコライ・ハルトマン『ドイツ観念論の哲学』(1923)
    N. Hartmann, Die Philosophie des Deutschen Idealismus, 1. Teil 1923, IITeil 1929.
 
Windelband は、『近世哲学史』(1911)の「ショーペンハウエル」の章で、ショウペンハウエルを
「ドイツ観念論の共通の世界観」の叙述において明晰であると賞賛し、「ドイツ観念論」なる語を用いているが、そこではまだ熟語として用いらていないそうである。
 

(2)入江幸男 の調査(未完です)
(*)C.L. Michelet, "Geschihite der letzten Systeme der Philosophie in Deutschland von    Kant bis Hegel" 1837-38. のなかに、この時期の哲学を指す言葉として登場するらしい。
(Vgl."Historisches W{rterbuch der Philosophie" Bd.4, S.35.)

(*)Wilhelm Dilthey, "Die Jugendgeschichte Hegels" 1906公刊、1905発表
   『ヘーゲルの青年時代』以文社、p.71に「ドイツ観念論」という語がある。 

(*) R.Kroner,"Von Kant bis Hege", 1921, T{bingen.
   (これの2.Aufl.1961しか手元にないので・・・初版で確認すべし)
   しかも、ここでは、ドイツ観念論とは、カントを含む。
ちなみに、1931年の邦訳のための序論では、 次のように述べている。
   「もしドイツ観念論の全発展を一本の樹木の成長に比較してよいならば、私はカントを     根、フィヒテを幹、シェリングを花、しかしてヘーゲルを実とよばねばならぬであろう。」   (『クローナー『ヘーゲルの哲学』岩崎勉、大江精志郎訳、理想社、1931年)