三田三丁目の東京タワー

  先週出張で見た東京タワーです。

雑用に終われて、しばらく書き込みできませんでした。
前回の続きです。
「チンパンジーと二歳から三歳の子供に、三つの容器のうち、どれにご褒美が入っているかを教えるのに、(a)正しい容器を指さす、(b)正しい容器のうえに小さな木片を印として置く、あるいは(c)正しい容器のレプリカを見せた。子供はすでに指さしを知っていたが、伝達用の符号として印やレプリカを使うことは知らなかった。それにも関わらず、子供はご褒美を見つけるために、そういう新しい符号を非常に効果的に使うことができた。」(p. 137)
チンパンジーと違って人間の子供は、どうして符号の意味を理解できたのでしょうか。
まだ発達したことばを持たない子供がどのように考えたのかを、我々が言葉で説明するときには、慎重でなければなりません。しかし、一応方弁として、子供がつぎのようなことを考えたとしましょう。

「なぜ大人は、そうしたのだろうか? それは、私にあれの入っているものを示すためではないだろうか。」

この時期の子供が、どの程度言葉を使用できるのかを確認しなければなりません(この確認をできれば後で行いたいと思います)が、これに似たことを考えたのだとしましょう。なぜなら、このように考えるのでなければ、木片が正しい容器を示めす符号であることを理解することは、困難であるように思われるからです。

この場合には、前回述べたトマセロがいう言葉を理解するための三つの条件が揃っています。
①「他者も意図をもつ主体であるということを理解しなければならない。」(p. 136)
②「共同注意場面への参加が必要である」(p. 136)
③「共同注意場面の中で特定の意図的行為、つまり、伝達意図を表す伝達行為を理解しなければならない。」(p. 136)

つまりこうです。
「なぜ大人は、そうしたのだろうか(大人は意図をも主体である)? それは、私にご褒美の入っているものを示すためではないだろうか(大人の伝達意図の理解)。」

②「共同注意場面への参加が必要である」も成立していることの説明が必要ですが、これは後回しにさせてもらって、ここでは、③「伝達意図の理解」の成立について考えて見ましょう。

トマセロは、これについて次のように言います。

「相手の伝達意図を理解するためには以下を理解しなければならない。
相手は[私がXに対する注意を共有することを]意図している。
Grice(1975)以降、誰の分析においても、伝達意図の理解には、この埋め込み構造がなければならないとされている。」(p. 137-138)

(グライスの論文「論理と会話」から伝達意図についてのこのような分析を引き出せる、という主張に対して、私は疑念を持つのですが、しかしそれは瑣末な問題なので立ち入りません。)
ともかくトマセロは、
「相手が[私がXに対する注意を共有することを]意図している」
ということの理解が、上の実験において成立していると主張しているのです。上の実験のケースで言うと
「大人は[私がご褒美の入っている容器に対する注意を共有することを]意図している」
ということになります。
この段階の子供は、誤信念課題を解くことができません。つまり、「わたしが知っていることは他のひとも知っている」とおもっています。この段階の子供が、「他のひとが知っていることは、私も知っている」と思っているかどうか、これについて私は知りません(ご存知の方がおられましたら是非教えてください)。
この段階の子供は、上のような伝達の意図をどのように理解しているのでしょうか。それは大人がそれを理解する仕方とは、違っているはずです。大人の理解を転移しないように注意して、この問題を考えてみたいとおもいます。

明日から名古屋に出張なので、2,3日お休みします。

投稿者: irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

「三田三丁目の東京タワー」への2件のフィードバック

  1. SECRET: 0
    PASS:
    少し出遅れましたが,シミュレーション理論をスケッチしてみます.トマセロが見つからないのでGoldman2006からです.
    先生が,たとえば大阪から東京に行くとき,何をするか,という行動を私は予測できます.ずばり「先生は新幹線に乗ろうとする」です.私はどのようにしてこの行動への意図を先生に帰属させたのでしょうか.Simulation段階とProjection段階の二段階にわかれます.

    Simulation Stage
    私はまず「東京に行きたい」pretense欲求をもちます.そして「新幹線に乗ると東京に着く」といったpretense 信念をもちます.これは自分の欲求と信念とは違いますが,信念は,デフォルトは私の知っていることは先生は知っている(the principle of charityの類)だと思います.そして,そのpretense信念と欲求を私の行動決定システムにほうりこみます.そして結果,pretense 意図`I will do …'を得ます.もし私なら新幹線に乗ります,というわけです.

  2. SECRET: 0
    PASS:
    Projection Stage
    どのようにかして(!?)pretense `意図`I will do …' を`he will do …'にします.
    これがおおざっぱなシミュレーション理論だと思います.得られた行動への意図は自分の意図とは区別されなければなりません(さもなくば私が新幹線に乗ってしまいます).また,シミュレーション段階において,自分の信念は隔離されていなければなりません.

    誤信念問題に関して,ゴールドマンは主体の信念の隔離がまだうまくいっていないからである,と考えているようです.

    というわけで,おっしゃるとおり,まさに自分の理解が他者の理解に先行します.自分の行動決定システムを使っているわけですから,もしそれがなければ,他者が次,何をするのかはまったく分からなくなるわけです.
    ゴールドマンによると,われわれは他者を理解するための特別な理論やシステムをもっていない,ということです.

    しかしそのこと自体がどうしてシミュレーション理論の弱点になるのかが,いまいちうまく把握できません.

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