16 感情的反応と二種類の合理的反応:イスラエルのガザ地区本格攻撃を目前にして(202301016)

Emotional reactions and two types of rational reactions: In the face of Israel's full-scale attack on the Gaza Strip

[カテゴリー:平和のために]

ガザ地区のハマスによるイスラエル攻撃に対して、イスラエルのネタニヤフ政府は大規模な報復攻撃をしようとしています。これについて内田樹さんが、YouTubeチャンネル「デモクラシー・タイムズ」で、感情の問題と合理的な対応を区別しなければならないと指摘しています。その通りだと思います。

家族や仲間を殺された人が復讐したいとおもう感情は人間にとってはある意味で自然なことです(動物は復讐しません)。しかし、それでは悲惨な復讐の連鎖はいつになっても止まりません。それを回避するには、双方にとっての長期的な利害を合理的に考える必要があります。しかし、この文脈での合理的な反応には二種類のものがあります。

一つは、「囚人のディレンマ」ゲームにおける合理的な反応です。「囚人のディレンマ」ゲームとは、互いにコミュニケーションできない人たちが、自己の利益が最大になるように合理的に考えて行為するとき、全体としては最悪の状態になることを示すというゲームです。

このゲームが成り立つには、二つの重要な条件があります。一つは、<囚人同士が互いにコミュニケーションできない>ということ、もう一つは、<二人の囚人がどちらも、自分の利益だけを最大にしようとしている>ということです。

この帰結を回避するには、この二つの条件を変えることが必要です(囚人のディレンマ・ゲームにおける配点を変更する、ということも、最悪の状態を避けるための一つの方法ですが、これは現実には難しいことがおおいので、触れません)。

私たちにできそうなことは、<当事者や関係者が相互にコミュニケーションすること>です。それができれば、最悪の事態を避けられるでしょう。もしコミュニケーションが十分にできるならば、他者の利益や全体の利益を考慮することが、結果として自己(目先の利益ではなく)長期的な利益を最大にすることになることがわかるでしょう。

他者の利益や全体の利益を考慮し、自己の長期的な利益を考慮するためには、合理的に考える必要があります。

合理的反応の一つは、他者とコミュニケーションせずに、自分の短期的な利益だけを、合理的に追及することです。合理的反応のもうひとつは、他者とコミュニケーションし、自己や他者や全体の利益を考え、自己の長期的な利益を合理的に追及するということです。

ホッブズが言ったように、人間は理性を持っているにも拘わらず争うのではなく、むしろ理性を持っているからこそ争うのです。理性的にふるまうことは重要ですが、それだけでは不十分です。少なくとも理性的なコミュニケーションが不可欠です。テロやヘイトスピーチは、コミュニケーションを壊してしまいます。