of志向性とは、「Xさんが、対象Yについて(of)、pと信じる(pと推測する、pかどうか疑う)」(X believes of Y that p)などで表現される志向性である。他方、that志向性とは、「Xが、pということを信じる(pと推測する、pかどうか疑う)」(X believes that p)などで表現される志向性である。Of志向性は、対象Yを指示して、それについてpと信じること(あるいは他の志向的態度をとること)です。
ブランダムは、この図式で、論理的語彙を使用しない推論を考えています。BSDのなかでは一般に、Vは「語彙」、Pは「実践」(実践ないしその能力」を表します。PV-suffは、の出発点のPが、矢印の先のVを運用するのに十分であること(being sufficient to deploy)を示します。PV-necは、矢印元のPが矢印の先のVを運用するのに必要であることを示します。上の図式は、「もし…ならば」という条件文を作る語彙Vconditionalsと、条件法を含まない語彙V1の関係を表現しています。条件法を含まない語彙でもそれが使用される時には、推論を行っています。その推論を行う実践がPinferingであり、それは、V1を運用するのに必要であるので、PV-necの矢印がPinferingからV1へ向かっています。
ブランダムは疑問の語彙については、何も述べていません。また問答関係についても全く言及しません。ブランダムは、よく「理由を与え求めるゲーム」(the game of giving and asking for reasons)について言及するのですが、そのとき彼の念頭にあるのは、問いと答えではなく、ある主張の理由を与える<上流推論>と、その主張を前提として他の命題に理由を与える<下流推論>だと思われます。
クワインの「翻訳の不確定性」、「指示の不可測性」によって、他者の言語の規則を解釈する方法は無限に存在し、それゆえに、どれが正しい解釈なのかを決定することが出来ません。「翻訳の不確定性原理」(principle of indeterminacy of translation)とは、「ある言語を別の言語に翻訳するための手引きには、種々のことなる手引きが可能であり、いずれの手引きも言語性向全体とは両立しうるものの、それら手引き同士は互いに両立し得ないということがありうる。」(『ことばと対象』邦訳42)ということです。「指示の不可測性(inscrutability)」とは、不確定性(indeterminacy)」とは、名詞や名詞句の指示対象を、一つに確定することが不可能であるということです。
その過程で、A Spirit of Trust(ST)の議論が、Between Saying and Doing (BSD)の叙述と密接に関係していることがわかりました。研究発表でもそのことを説明しました。概念の客観的形式と主観的形式、言い換えると真理様相語彙と義務規範語彙が相互に意味依存するというSTの主張を、BSDでは、「語用論的に媒介された意味論」をもちいて説明していました(この説明については、上記の発表原稿をご覧ください)。