[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]
前回述べたように、推論は問いを前提します。本書では、問答推論的意味論では、(ブランダムの推論的意味論を拡張する仕方で)、発話の意味を理解するとは、正しい上流問答推論と正しくない上流問答推論を判別でき、正しい下流問答推論と正しくない下流問答推論を判別できることだと説明しました。この推論関係によって表現の意味を明示化できるのは、(ここでもまたブランダムの推論的意味論を拡張する仕方で)、問答推論を行っても他の語彙の意味が変化することはないからだと説明しました。推論をおこなっても他の言語表現の意味を変えないことは、(ブランダムが指摘したように)論理的語彙が保存拡大性をもつことによって説明できます。問答推論によって他の言語表現の意味が変わらないことについては、この論理的語彙に加えて、疑問表現が保存拡大性をもつことを示す必要があります。これについては、『問答の言語哲学』pp. 70-75で疑問詞の導入規則と除去規則とそれらの保存拡大性を説明しました。この説明は、問答推論的意味論や現在考察中の問答推論的認識論にとって重要なものですので、ここでその説明を少しだけ改善して、再説したいと思います。
#疑問詞の導入規則
<疑問文Qに含まれる疑問詞wの導入規則>
p┣ Q
(Qは疑問詞wを含む補足疑問であり、pは平叙文であり、pはQが健全であるための十分条件です。)
具体的には次のようになります。
<「どれ」と「だれ」と「どこ」の導入規則>
「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」
「Fである人が存在する」┣「だれが、Fですか?」
「pが発生する場所が存在する」┣「pはどこで発生しますか?」
#疑問詞の除去規則
疑問詞を除去する最も重要でありふれた方法は、補足疑問文に答えることです。
<Qに含まれる疑問詞のwの除去規則>
Q、Γ┣ r
(Qはwを含む補足疑問文であり、Γは平叙文の列であり、rはQの真ある答えです。)
もう少し限定した形式にすると次のようになります。
<「どれ」と「だれ」と「どこ」の除去規則>
「どれがFですか?」、Γ┣ 「aはFです」
「だれが、Fですか?」、Γ┣ 「bは、人間でありかつFである」
「pはどこで発生しますか?」、Γ┣ 「cは場所であり、かつcでpが発生する」
補足疑問文「どれがFですか」の場合、導入規則と除去規則は次です。ある。
「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」
「どれがFですか?」、Γ┣ 「aはFです」
この二つの連続適用すると、次の推論になります。
「Fであるものが存在する」、Γ┣ 「aはFです」
この推論は、補足疑問文がなくても可能な推論です。それゆえに、この決定疑問文は保存拡大性を持ちます。
#決定疑問文の保存拡大性
次に、決定疑問文の使用の保存拡大性を説明します。
「これはリンゴですか」の導入規則は次のようになります。
「これは果物です」┣「これはリンゴですか?」
「これはリンゴですか?」の除去規則は次のようになります(Γと⊿は平叙文の列)。
「これはリンゴですか?」、Γ┣「これはリンゴです」
「これはリンゴですか?」、⊿┣「これはリンゴではありません」
この二つを連続適用すると、次の推論になります。
「これは果物です」、Γ┣「これはリンゴです」
あるいは、
「これは果物です」、⊿┣「これはリンゴではありません」
これらの推論は、決定疑問文がなくても可能な推論です。それゆえに、この決定疑問文は保存拡大性を持ちます。
より一般的に説明すると次のようになります。
?pの導入期測として、
r┣?p (rは?pが正しい答えをもつための充分条件)
?pの除去規則として、
?p、Γ┣p
?p、⊿┣¬p
を仮定します。このとき、導入規則と除去規則を連続適用すると、次の推論になります。
r、Γ┣p
r、⊿┣¬p
これらの推論は、決定疑問文がなくても可能な推論です。それゆえに、この決定疑問文は保存拡大性を持ちます。
以上によって、問答推論によって論理的語彙と疑問詞と疑問文形式によって、他の言語表現の意味が変わるとはなく、それゆえに他の言語表現の意味を明示化できることを説明できます。また、問答推論よって事実を記述する言語表現の意味が変化しないからこそ、問答推論によって事実を解明できることを説明できます。