10 原始共同体内の問答(5) 共同体の同一性

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10 原始共同体内の問答() 共同体の同一性 (20140406)
 問い「言語によって、ヒトの個体と群れは、類人猿の個体と群れとは異質なものになっただろう。では、どこが異質なのだろうか。」への答えその4。
 答えその1は「共有知」の成立であり、その2は「文化」の誕生、その3は「規範」の登場であった。その4は、「共同体の同一性」(の構成)である。
 誰が集団のメンバーであるのかについての共有知が成立し、文化や規範を共有していることについての共有知が成立する。これらによって、狩猟採集する数十人の遊動集団が、一つの集団を構成することもまた共有知となる。サルの群れもまた、他の群れと容易に融合したりせず、その意味で一つの集団を形成しているといえるだろう。しかし、彼らは、その群れが一つの群れであることを互いに知っているのではない。「私の集団」とか「私たちの集団」とか「この集団」と呼ぶことはない。言語を持つ人の集団では、このような指示表現によって、人は自分たちの属する集団を同定し、この同定をメンバーが共有することによって、集団の同一性が集団的に構成される。
 集団の同一性の説明は、人格の同一性の説明と似たものになるだろう。人の細胞や組織が入れ替わるように、集団のメンバーは、その誕生と死によって、入れ替わる。そのとき、変化しないものは、文化である。これは、人の細胞や組織が入れ替わっても、その人の容姿が変化しないのと類似している。もちろん、人の姿形は、年齢とともに連続的に変化し
てゆくが、それは文化も同様である。姿形の変化の連続性によって、人格の同一性を保証するためには、変化の連続性を記憶によって保証する必要がある。この記憶の正しさを保証するものは、物理的な証拠、他人の記憶などである。集団の場合にも、集団の同一性を保証するのは、文化の連続性や集団の歴史についての記憶であろう。集団についての幾人かの記憶を集団のメンバーで共有し、あとの世代に伝えるということが行われてゆく。仮にこのような記憶を「集団的記憶」と呼ぶならば、このような集団的記憶によって、集団の同一性(物語的な同一性)が集団的に構成される。(後の議論になるが、国家と人の関係は、共同体と人の関係よりも、より抽象的であるので、国家の統合にとっては、同一性は、共同体にとってよりも、より重要なものになるだろう。)