08 規範の生成について

08 規範の生成について(20150803)

和辻は、個人と人倫的全体は、相互の否定において成立する、という。つまり、全体の否定によって個人が成立し、個人の否定によって全体が成立するという。この相互の否定において、それぞれが空であることがわかる、という。「個人は己の本源たる空(すなわち本来空)の否定として、個人となるのである。」(124) 

しかもここでは、人倫的全体による個人の否定が、個人に対する規範の強制としてとらえられている。個人の「本源」は「空」であるので、規範の強制は、全体による個人の否定としてのみならず、個人の「本源」による個人の否定、つまり個人の自己否定、自己強制でもある。ゆえに、「強制は、個人への外からの強制でありながら、しかも同時に己の本源からの自己強制であり得る」(124頁)こうして社会規範が個人に強制され、しかも個人がその強制を自己の「本源」として受け入れるという現象が成立する。和辻は、これを個人と人倫的全体の存在の「否定的構造」として説明する。

この「人間存在の否定的構造」を示そうとする和辻の議論には、あいまいさが付きまとっており、それは批判的に検討するに値すると思われる。


 

投稿者: irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

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