04 推論的意味論から問答推論意味論へ(1)(20200417)

真理条件意味論、主張可能性意味論は、真理値を持つ発話の意味を説明出来るが、真理値を持たない発話の意味を説明できないという限界を持つ。それに対して、意味の使用説は、表現の意味をその使用方法として捉えるものであり、真理値を持たない発話の意味を、真理値を持つ発話の意味と同様に仕方で説明できるという利点をもる。ブランダムが提唱する推論的意味論(inferential semantics)は、この使用説の一種であり、発話の使用方法を、その発話を用いた推論として説明する。ブランダムは推論的意味論の基本的なアイデアを次のように説明している。

「人が自らコミットしている概念的内容を理解することは、一種の実践的な熟練である。それは、主張から何が導かれ何が導かれないか、あるいは、何がその主張を支持する証拠で何がそれに反する証拠なのか、等々を判別できるということに存する。」(ブランダム『推論主義序説』斎藤浩文訳 p.27. )

pという主張の意味は、その「主張から何が導かれ何が導かれないか」つまり、pを前提として(場合によっては、それに他の前提を加えて)どのような命題が導出でき、どのような命題が導出できないか、を判別できることである。さらに言い換えれば、pを前提の一つとする推論について、それが正しいか正しくないかを判別できるということである(このような推論をpの「下流推論」と呼ぶことにしよう)。また、「何が(pという)主張を支持する証拠で何がそれに反する証拠なのか」を判別できることである。つまり、pを結論とする推論が正しいか正しくないかを判別できるということである(このような推論をpの「上流推論」と呼ぶことにしよう)。

 言い換えると、発話の意味を理解するとは、発話の上流推論と下流推論について、それらが正しいか正しくないかを判別できるということである。「判別できる」というのは、「判別のノウハウ(技能知)を持っている」ということである。ブランダムは、発話の意味を理解することを、発話の推論役割を理解することだ、と言うこともある。

 使用説といえば、曖昧な説明方法のように聞こえるかもしれが、発話の意味をこのような推論役割として説明することは非常に明晰判明な説明になっている。しかも、真理値を持たない命題も、実践的推論をその上流推論や下流推論としうるので、真理値を持つ文と同じように説明出来るという長所を持っている。つまり、命令文や約束の文の意味をも推論的意味論で説明出来ることになる。

 ただし、この推論的意味論では、疑問文の意味を説明できない。なぜなら疑問文は、通常の理論的推論や実践的推論の前提や結論にならないからである。そこで、疑問文を前提や結論に含む推論システムを作れば、その問答推論の役割によって、疑問文の発話の意味を説明することができる。つまり、疑問文の発話の意味を理解するとは、上流問答推論と下流問答推論について、正しいものと正しくないものを判別できることである。

 この問答推論について、次に説明しよう。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

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