101 指示性の固定性と指示の不可測性は両立可能である(Rigidity of reference and inscrutability of reference are compatible) (20240113)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

#富士山の命名は、次の発話によって行われます。

  「あれが富士山です」

この命名宣言には、真理値はありません。しかし、この宣言の後で、「あれが富士山です」と語るとき、(命名宣言の反復である場合もあるでしょうが)真理値を持つ事実の記述となることが可能です。この記述が真であるためには、記述の「あれが富士山です」の「あれ」が、命名の「あれが富士山です」の「あれ」と同一の対象を指示していなければなりません。逆にいえば、もし「あれが富士山です」が真であるならば、その「あれ」は命名宣言の中の「あれ」と同一対象を指示しています。

記述「あれが富士山です」が真である ≡ 記述「あれが富士山です」の「あれ」の指示対象と命名「あれが富士山です」の「あれ」の指示対象が同一である

命名宣言の中の「あれ」が何を指示しているのかが、クワインが言うように不可測(inscrutable)であるとしましょう。仮に命名宣言の中の「あれ」の指示対象が不可測であり、複数の可能性をもつとしても、指示されている可能性を持つそれぞれの対象について、真なる記述「あれが富士山です」の中の「あれ」が、命名宣言の中の「あれ」と同一の対象を指示していると想定することは可能です。

 もし「富士山」を命名した者が「あれ」で指示していたものと、それを学習した者が「あれ」で指示しているものが、ズレているならば、「あれが富士山です」という記述の真理値に関して、命名者と学習者に不一致が生じるでしょう。不一致が生じる限り、そのことは、学習者の学習がまだ完了していないことを意味します。学習が完了したならば、それは一致するはずです。もちろん、学習が完了したと思っていたのに、ある時、その用法について不一致が生じることはありえます。

次に一般名の定義を考えましょう。s「あれはブナです」と定義したとします。この「あれ」が指差しの方向にある木を指示しているのだとしても、どのような木であるのか、不可測であるとしましょう。

しかし、「あれはブナである」が真なる記述であるならば、その「あれ」は、定義の中の「あれ」と同種の対象を指示していることになります。「あれはブナである」が真なる記述であれば、その「あれ」は常に定義の中の「あれ」と同種の木を指示しているのです。これは自然種名「ブナ」の固定指示性です。

#命名の固定指示と指示の不可測性は、両立可能です

仮定1(命名の固定指示):「この子をソクラテスと命名する」という命名発話によって、この固有名「ソクラテス」はすべての可能世界で同一対象を指示することになると仮定してみます。

仮定2(指示の不可測性):この命名発話「この子をソクラテスと命名する」の「この子」による指示は不可測的であり、その指示対象については複数の可能性が残ると仮定してみます。

この二つの仮定は両立可能でしょうか。「この子」の指示対象について複数の可能性があるならば、「ソクラテス」の指示対象も複数の可能性をもちます。「ソクラテス」は、すべての可能世界で、同一の対象を指示しますが、しかしその同一の対象は複数の可能性を持ちます。このように考えるとき、この二つは両立可能です。

#自然種名の固定指示と指示の不可測性は、両立可能です

仮定1(自然種名の固定指示):「これは、リンゴである」という定義の宣言発話によって、この固有名「ソクラテス」はすべての可能世界で同一対象を指示することになると仮定してみます。

仮定2(指示の不可測性):この命名発話「この子をソクラテスと命名する」の「この子」による指示は不可測的であり、その指示対象については複数の可能性が残ると仮定してみます。

この二つは、両立可能ですs。指示の不可測性は、指示の解釈につねに複数の可能性が残るということですが。その複数の可能な対象の各々について、定義がそれを固定指示していると考えることができるからです。

(以上の説明での「固定指示」や「指示の固定性」は、固有名や一般名の使用の状況や文脈が異なっても、同一の対象を指示するという一般的な理解であり、可能世界の貫世界的同一性を認めるかどうかなどの、固定指示についての論争に踏み込んだものではありません。これについては、勉強してから別途論じたいと思います。)

次に、記憶の問題を考えたいとおもいます。

以前に、問いの答えが真であることは、次のことに基づくと述べました。

  • 言葉の学習に基づく
  • 語や文の定義に基づく。
  • 1,2からの推論に基づく
  • 1,2の記憶に基づく
  • 1,2,3,4,5についての他者の承認に基づく

ここまで論じてきたのは、1と2についてです。

次に記憶の問題を考えたい思います。