# 宣言的問答とは
宣言的問答とは、宣言型発話を答えとする問答です。宣言型発話とは、事実や関係や語句の意味を設定する発話です。J.サールによれば、主張型発話は言葉を世界に適合させようとし、意図表明の発話(行為拘束型発話と行為指示型発話)は、世界を言葉に適合させようとするのに対して、宣言型発話では言葉と世界の間の適合の方向は両方向です。このような宣言型発話は、次の3つに区別できるでしょう。
(1)主張宣言型発話
これは、事実についての主張であると同時に、事実を設定する宣言です。
「アウト」「有罪である」
審判や判決がこれにあたる。この発話は事実についてのものであるので真理値をもちますが、それを真にするのは、世界との関係だけでなく、宣言の発話そのものです。サールの表記では、適合の方向は↓↕(サール『表現と意味』山田友幸訳、誠信書房、32)となります。この発話の場合、審判が「アウト」と宣言するから、アウトなのであり、裁判官が「有罪である」と宣言するから有罪なのです。このような主張宣言型発話は社会的な慣習として、社会的制度に従うことによって成立します。
#主張宣言的問答と論理関係
裁判は、訴えで始まります。検事は、「Aは有罪である」と主張し、弁護人は、「Aは無罪である」と主張します。判事には、この矛盾の解決が求められます。つまり、判決は、「この矛盾をどう解決するのか」という問いへの答なのです。
主張宣言型発話の相関質問は、明示されませんが自明です。通常の主張型発話は、複数の相関質問の答えとなりうるのですが、主張宣言型発話は、慣習的に成立するものであり、相関質問もまた慣習的に決定されているので、それを明示しないのだと思われます。
裁判は両立不可能な二つの主張を前提としてはじまるので、裁判過程、および判決である主張宣言型発話では、二つの主張の両立不可能性は前提さています。
従って、宣言的問答の場合、問いのなかに曖昧なしかたである両立不可能性が、問答関係によって明示化されるのではなく、主張宣言的問答では、両立不可能性はすでに明示的に存在します。両立不可能性や帰結の関係は、主張宣言の問答関係から発生するのではなく、前提されています。
(2)行為宣言型発話
私がここで「行為宣言型発話」と呼びたいのは、つぎのような発話です。これは、行為についての決定であると同時に、行為を実現する宣言です。
「開会します」「閉会します」
などの発話がこれにあたります。
実践的問答の答えである実践的発話は、命令と約束に区別できますが、いずれにせよ世界を言葉に合わせることにコミットすることであり、世界を言葉に合わせて変えるために行為しなければなりません。これに対して、行為宣言型発話は、発話に続いて何かを行為する必要はありません。なぜなら、発話の内容は、発話と同時に成立するからです。この点が行為宣言型発話と実践的発話の違いです。行為宣言型発話の適合の方向は、↑↕と表現できるでしょう。
宣言の遂行動詞の例としてサールが挙げているものの中で、私が「行為宣言型発話」と呼ぶものに属する遂行動詞には次のようなものがあります。:「開会します」:「辞任する」「休会する」「任命する」「指名する」「承認する」「確認する」「不承認とする」「支持する」「放棄する」「否認する」「否認する」「破門する」「聖別する」「洗礼する」「短縮する」
#行為宣言型問答と論理関係
行為宣言型発話もまた慣習を前提としています。それゆえに、それは、開会することと開会しないこと、承認することと承認しないこと、などの両立不可能性の関係の存在とその理解を前提としています。両立不可能性や帰結の関係は、行為宣言の問答関係から発生するのではなく、前提されています。
では、定義宣言型問答もまた論理的関係を前提とするのでしょうか。これを次に考えたいと思います。