144 意図的行為と規範性:<規範に関する記述的問答>を<事実に関する記述的問答>に書き換えることは不可能である(Intentional Action and Normativity: It is impossible to rewrite a descriptive question about a norm into a descriptive question about a fact)(20250208)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

答えが真理値を持つ問答を「記述的問答」と呼び、これを<事実に関する記述的問答>と<規範に関する記述的問答>に区別しました。ただし、前回述べたように、<事実に関する記述的問答>は、規範に関する記述的問答に書き換えることが出来そうです。しかし、<規範に関する記述的問答>は、<事実に関する記述的問答>に書き換えることは出来ないように見えます。今回は、それを説明したいとおもいます。

#意図的行為と規範性

規則とは、もっとも広義において、出来事が反復することです。規則性は、法則性と規範性に区別できそうです。規範性とは、規則の表象に従って反復することであり、その場合の規則を「規範」と呼ぶことにします。規則(規範)の表象に従って行為するとは、意図的に行為することです。

意図的行為は、ある状態や出来事の表象を実現しようとする行為です。その状態や出来事が一般的なものであるとき、例えばラーメンを食べるというような反復可能な一般的な行為の表象に従って行為することになります。この場合、その表象はその行為を導く規範となります。ただし、その状態や出来事が一回的なものである場合、例えばある人があるときラーメンを食べるという一回的な行為の表象に従って行為する場合にも、その表象はその行為を導く規範となります。なぜなら、一回的な行為の場合にも意図の内容は、行為を支配するものであり、その意味でそれは規範的であるからです。

意図的な行為の意図こそが、規範性の源です。したがって、規範に関する概念は、意図的行為に関する概念であり、規範に関する記述的問答は、意図的行為に関する記述的問答です。

人の意図的行為に関する問答は、規範性をもちます。例えば次の問答を考えてみましょう。

A「彼女は昨日夕食に何を食べましたか」

B「彼女はラーメンを食べました」

この問答が規範性を持つのは、「夕食を食べる」「ラーメンを食べる」という行為が意図的な行為である以上は、ある行為の表象に従って行為し、その表象を実現しようとする行為だからです。したがって、この問答は、それが表現している行為の規範に関する記述的問答になっています。

#まとめると、意図的行為を次のように捉えることができます。<意図的行為は、ある状態や出来事の表象に基づいてそれを実現しようとする行為であり、そのような意図的行為において、実現しようとする表象は、行為をコントロールする規範として機能しています>。<規範に関する記述的問答>とは、基本的にはこのような意図的行為に関する記述的問答であると見做せます。他のもっと複雑な規範に関する問答もまた、<意図的行為に関する記述的問答>に還元できるでしょう。

#問答行為の規範性

問うことと答えることは、意図的行為です。したがって、どのような問答であれ、問答は規範性を持ちます。したがって、問答に関する記述的問答は、規範に関する記述的問答です。つまり、<事実に関する記述的問答>に関する問答も、<規範に関する記述的問答>に関する問答も、どちらも<規範に関する記述的問答>です。

#問答行為の規範性のもう一つの説明

 問うことと答えることが規範性を持つことについては、上述のように、それらが意図的行為であることによって説明できます、しかし次のように説明することもできます。

問うことは、単に答えを求めるだけでなく、正しい答えを求めることです。それゆえに、問いに答えようとする者は、正しい答えを返すことを求められています。問う者も答える者も、答えが正しくなければ、問う者の要求に応えたことにならないことを理解しています。これによって、正しい答えを返すことは、答える者にとっても問う者にとっても、規範として理解されます。このような意味でも問答は規範性をもちます。他方で、問うことも答えることも意図的な行為であるので、前述の意味でも問答は規範性をもちます。

このような意味で、すべての問答は、規範性を持ちます。しかし、このことは、すべての問答が、規範に関する問答であることを意味しません。

記述的問答を、<事実に関する記述的問答>と<規範に関する記述的問答>に分けるとき、後者は、<意図的行為に関する記述的問答>と言い換えることもできます。そして、すべての問答が、意図的行為に関する問答ではありません。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。