52 4種類の矛盾の説明順序を逆転させる (20230501)

[カテゴリー:問答推論主義へ向けて]

#4種類の矛盾の説明の順序

①構文論的矛盾(論理的矛盾)

②意味論的矛盾

③語用論的矛盾

④問答論的矛盾

これらは、この順番で説明されることが多いでしょう(拙著『問答の言語哲学』第4章でも、この順序で説明しました)。しかし、この説明の順番を逆にするほうが適切であるかもしれない。

まず、<③語用論的矛盾は ④問答論的矛盾から説明できます。>

語用論的矛盾は、命題内容と発語内行為の矛盾から生じるが、命題内容は問いへの答えとして成立する。他方で、発語内行為も亦、質問への返答として成立する。(この二点については、『問答の言語哲学』で論じました。)したがって、語用論的矛盾は、<相関質問への答えの命題内容>と<相関質問への返答としての発語内行為>の矛盾である。語用論的矛盾は、相関質問への答えの命題内容と、相関質問への返答の発語内行為の矛盾です。返答の発語内行為は、質問において既に指定されているので、語用論的矛盾は、発話の命題内容が、相関質問の想定と矛盾するということです。このように理解するとき、<すべての語用論的矛盾は、問答論的矛盾の一種である>と言えます。

次に、<①論理的矛盾は、②意味論的矛盾の一種として説明できます。>

推論規則やそれに基づく論理的推論は、おそらくブランダムがMaking It Explicit、やArticulating Reason (『推論主義序説』)で主張するように、実質推論の一種として説明できるでしょう(これについても『問答の言語哲学』で論じました)。したがって、①論理的矛盾は、②意味論的矛盾の一種として説明できます。

さらに最後に、<②意味論的矛盾は、③語用論的矛盾の一種として説明できるのではないでしょうか>。

「わたしは存在しない」は語用論的矛盾の一例です。こでは、<話し手が主張する>という発語内行為と、<話し手が存在しない>という命題行為(命題内容を構成する)が矛盾します。他方、「この赤リンゴは青い」は、意味論的に矛盾しています。この命題から、「このリンゴは赤い。かつこのリンゴは青い。」を導出できますが、これが矛盾するのは、「赤い」と「青い」という二つの述語を一つの対象に述語づけることができないからです。より正確にいうならば、「このリンゴは赤い」と「このリンゴは青い」が同一の問いに対する答だからです。同一の問いに対するこの二つのコミットメントが両立不可能だからです。

「この赤いリンゴは青いですか」に「それは青いです」と答えることは、問いの前提に矛盾します。つまり、この問いは、「この赤いリンゴ」が指示する対象が存在することを前提していますが、答えはその前提を否定しているからです。これは、問答論的矛盾です。また他方で、意味論的矛盾は語用論的矛盾の一種だともいえます。答えが、問いに対する答えとなるためには、問いの前提を受容している必要がありますが、問いに答えるという発話行為は、問いの前提を受容することを含意しているのに、答えの命題内容はそれを否定しているからです。

もし、発話の意味や発語内行為が、問答関係において成立するのだとすると、これらの矛盾は、問答論的矛盾から説明する方が適切であるかもしれません。

もし問答論的矛盾から論理的矛盾が説明することが適切であるならば、論理法則もまた問答論的矛盾から説明することが適切であるかもしれません。次回は、それを試みたいと思います。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。