122 公理系が不完全であるとき、構文論と意味論が分裂する(When the axiomatic system is incomplete, syntax and semantics split)((20240611)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

*公理系の健全性完全性の説明

ある公理系で文pを定理として証明できるとき、┣pと表記し、文pを意味論的に真であると証明できるとき、⊨pと表記します。ある公理系が健全であるとは、全ての定理が真である(┣p ⇒ ⊨p)ということです。完全であるとは、全ての真なる命題を定理として導出できる(⊨p ⇒ ┣p)ということです。

#公理系が不完全であるとき、構文論と意味論が分裂する。

命題論理と述語論理は、健全性と完全性を持ちます。つまり、真で去ることと定理であることは同値なのです((⊨p ⇔ ┣p)。

 しかし、自然数論を含む述語論理は、不完全であることをゲーデルが証明しました(1931)。つまり、自然数論を含む述語論理では、真であることと定理であることの間にずれが生じるのです。健全性は証明されているので、真であるのに証明できない式が存在するということです。

 そうすると、構文論とは別に意味論が必要になります。ここで重要になるのが、タルスキーの真理の「定義不可能性定理」です。

#タルスキーの真理の「定義不可能性定理」(1933)

この定理は、「一階算術」(加法と乗法を含みペアノの公理で公理化された自然数についての理論)の中で、「一階算術の文の真理の概念を一階算術の式で定義できない」という内容の定理です。タルスキーは、この定理を拡張して、「その定理は否定を持ち対角線補題が成立する程度に自己言及できる十分な強さを持ついかなる形式言語にも適用できる」ことを証明しました。(以上の説明には、Wikipediaの項目「タルスキーの定義不可能性定理」を利用しました。)

 手短にいえば、ある言語の内部で、その言語の文の真理について語ることは出来ないということです。ある言語の文の真理性について語るには、その言語を対象とするメタ言語が必要であり、「真である」という語もメタ言語の語彙として可能になります。このメタ言語は公理系として構成できますが、さらにこのメタ言語の文の真理について語るにはメタメタ言語が必要となり、これは反復します(参照、1944「THE SEMANTIC CONCEPTION OF TRUTH AND THE FOUNDATIONS OF SEMANTICS」(part I, section 9)

 ところで、もしこのように反復するとすれば、最初の対象言語の文の真理性はいつになっても確定しません。これは問題にはならないのでしょうか。ちなみに、ゲーデルの不完全性定理の証明では、このような反復の問題は生じませんでした。なぜなら、公理系が不完全であることが分かったとしても、つまりある命題もその否定もどちらも証明できない命題があることが分かったとしても、そのことは健全性をそこなわないからです。以上をゲーデルの「不完全性定理」とタルスキーの「定義不可能性」のとりあえずの紹介とし(もし必要になれば、そのときより詳しく論じることにします)、これらが私のこれまでの議論とどう関係するのかを考えたいと思います。