言語の起源について

 
     a Japanese balloon bombe の説明文です。
 
 
 
05 言語の起源について (201205015)
 
(言語起源論という悪名高い深みにはまってしまって、しばらく思弁的な勝手な推量を語ることになりそうです。)
 
復習ないし議論の再構成をしたいと思います。
 
「動物の群れと人間の社会を区別するものはなにだろうか?」
これに対して、「言語の有無だ」と答えると仮定しよう。
 
もし言語の有無によって、動物の社会から人間の社会を区別できるのだとすると、私たちは、次のような社会の定義を仮定することもできるだろう。(この二つの仮定が、必然的に結合しているのかどうかを検討してみる必要があるが、それはまだ未確定である)
 
仮定「個人では解けない問題を解決するために作られたものが、社会(社会制度)である。個人では解けない問題を解決しようとする活動が、社会運動である。社会制度や社会運動はそのようなものとしてのみ正当化されうる」
 
このように考えた時に「言語は、社会制度なのかどうか」という問いにはどう答えることになるのだろうか。これに対する答えには、肯定と否定の答えが可能であり、アンチノミーになりそうだ、と前回のべた。
 
しかし、この問いに対しては、とりあえず、次のように答えることにしたい。
<言語は、個人では解けない問題を解決するために作られたものである。それゆえに、社会制度であるように見える。しかし、言語によってはじめて解決される個人では解けない問題は、当事者が言語で考えている問題ではない。したがって、「言語は、個人では解けない問題を解決するために作られた」と言えるとしても、それは当の個人による理解ではなくて、記述する者が「個人では解けない問題」であると記述しているにすぎない。>
 
では、「言語を生み出すことになった、個人では解けない問題とは何であったのだろうか?」
これに対して、以下で提案したい答えは、次のとおりである。
「言語が成立するには、共有知の成立が前提となるだろう。そして、その共有知の成立が、個人では解けない問題を生み出したのだろう。」
 
(もし、類人猿は共有知を持たないとすると、言語を生み出すことになった、個人では解けない問題を解いたのが人間であり、解けなかったのが類人猿であったとは言えないことになる。つまり、言語を生み出すことになった、個人では解けない問題は、そもそも類人猿には生じなかったのだ、と言うことになる。このように考えるとき、「言語ではなくて、共有知が、動物の群れと人間社会を分けるものだといえるのではないか」という疑問が生じる。これについては後で考えよう。)
 
まずは、共有知によって生じた個人では解けない問題とは何であったのかを、推測してみよう。
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言語の発生や学習において、発話の意味を理解するよりも、次の①や②の理解が先行するだろう。(Davidsonは発話の意味の理解よりも、主張という発語行為の理解が先行すると考えた。ところで、発話は主張型発話には限らない。命令、警告、依頼、約束等々のその他の発語内行為もある。命令と警告の区別や、依頼と約束の区別などは、発話の意味の理解ないし想定なしには大変難しいだろう。主張しているのか、約束しているのかの区別についても、発話の意味の理解なしには難しいのではないだろうか。しかし、より曖昧な仕方でのつぎのような理解は、発話の意味の理解や、発語内行為の理解に先行して可能なのではないだろうか。)
 
①何かを伝えようとしていることの理解
②何かに注意を向けようとしていることの理解
 
例えば、外国人が何かを伝えようとしているが、何を伝えようとしているのか、わからないということがあるかもしれない。たとえば、質問しているのか、何かを依頼しているのかわからないことがあるだろう。そのときでも、彼女が何かを伝えようとしていることはわかるだろう。例えば、誰かが何かを指さして、大声を出しているとすると、何を指示しようとしているのかはわからないとしても、何かに注意を向けようとしていることがわかるだろう。
 
ところで、私たちは、次の二つの理解を区別できる。
 
(1)内容はわからないが、相手が何かを伝えようとしていることを理解すること
(2)相手が伝えようとしている内容を理解すること
 
この(2)が成立しなくても、(1)は成立しうる。(ところで、(2)が成立するときには、(1)が必ず成立していると言えるかどうかについては、ここでは未確定にしておきたい。)
 
この(1)と(2)の各々について、共有知が成立しうる。
(1)の理解についての共有知は、(2)の理解や(2)の理解の共有知がなくても成立しえる。
((2)の理解の共有知が成立するときには、(1)の理解の共有知が必ず成立するかどうかは、ここでは未確定にしておきたい。)
 
共有知とは何かを説明してから、それが生み出す個人では解けない問題を説明しよう。