疑問表現の意味もまた、その導入規則と除去規則で明示化できるだろう。疑問文には、決定疑問(yes-no疑問)と補足疑問(wh疑問)があるが、決定疑問は特有の構文を持つが、特有の語彙をもたない。そこでまず、補足疑問から考察しよう。
補足疑問は疑問詞(「どれ」「なに」「だれ」「いつ」「どこ」「どんな」「どのように」など)をもつ。「だれ」は「どの人」、「いつ」は「どの時刻」、「どこ」は「どの場所」、「どんな色」は、「‥の色はなに(どれ)」に、「どのように」は、「どんな仕方」に、さらに「…の仕方はなに(どれ)」などに、書き換えることができる。(「なぜ」以外の)すべての問いは、おそらく「どれ」の問いないし「何」の問いに書き換えられるだろう(「なぜ」の問いの説明は、最後に注とした)。「どれ」と「なに」の導入規則と除去規則は次のようなものである。
「どれ」と「なに」の導入規則
「aがFです」┣ 「どれがFですか?」
「aはFです」┣「aはなにですか?」と除去規則
「どれ」と「なに」の除去規則(タイプ1)
「どれがFですか?」┣ 「あるものがFです」
「aは何ですか?」┣「aはある集合に属する」(あるいは「aはある性質を持つ」)
疑問詞を除去するもっともありふれた方法は、補足疑問に答えることである。それは次のようになる。(結論は、補足疑問の答えであり、Γと⊿は、その答えを導出するのに必要な平叙文の前提の列である。)
「どれがFですか?」、Γ┣「aがFです」
「aはなにですか?」、⊿┣「aはFです」
「どれ」の導入規則と除去規則(タイプ1)を連続して適用すると
「aがFです」┣「あるものがFです」
「どれ」の導入規則と除去規則(タイプ2)を連続して適用すると次の推論が成立する。
「aがFです」┣「aがFです」
「なに」の導入規則と除去規則(タイプ1)を連続して適用すると
[aはFです」┣「aはある集合に属する」(あるいは「aはある性質を持つ」)
「なに」の導入規則と除去規則(タイプ2)を連続して適用すると
「aはFです」┣「aはFです」となる。
これらの導入規則と除去規則を連続適用してできる推論は、これらの疑問表現を使用しないでも可能である。ゆえに、これらの規則は「調和」をもつ。
したがって、補足疑問の問答は、語や文の意味を変化させない。また補足疑問を用いた問答層推論は、語や文の意味を変化させない。したがって、補足疑問の問答やそれを含む問答推論によって、語や文の意味を明示化できる。問答推論的意味論は、発話の意味を次のように説明することになる。
決定疑問文による問答が、表現の意味を換えないことは自明だとしてもよいだろう。
<発話の意味を理解するとは、それの正しい上流問答推論と正しくないそれ、正しい下流問答推論と正しくないそれを、判別する能力をもつことである>
次は、このような「調和」という性質を持たない語彙について考えよう。
注、<「なぜ」の問いは、出来事の原因を問う「なぜ」、行為の理由を問う「なぜ」、主張の根拠を問う「なぜ」に分けることができ、それぞれを「原因は何か」「理由な何か」「根拠は何か」と言い換えることができる。>以前、拙論 「三つの「なぜ」の根は一つか」(『メタフュシカ』35号別冊、2004年12月 S.59-68)でこのように論じた。現在も、「なぜ」の問いをこの3種類に分けることができると考えている。ただし、例えば出来事の原因をとう「なぜ」の問いを、「原因は何か」の問いは、全く同じではないと考えるようになった。「…の原因は何か」の答えは「…の原因は、xである」という形式をとるだろう。これに対して、「…は何故か」という問いは、「…」という出来事の説明を求めており、その答えは一つの命題になるのではなく、推論になる。たとえば「p」が出来事の記述であるとき、「なぜpか」という問いは、出来事pの説明を求めており、その答えは、「rであり、sである、ゆえにpである」という推論の形式をとることになる。この推論は、pがなぜ成立したのかを説明している。理由を問う「なぜ」、根拠を問う「なぜ」の場合も、これと同じで、答えは推論になる。「なぜ」の問いは、答えが一つの命題ではなく、推論になる点で、補足疑問とは異質である。