15 科学研究における事実の明示化 (20200531)

[カテゴリー:問答推論主義へ向けて]

 XとYが同義の表現であるとしよう。この場合、次の理由でXもYも保存拡大である。Xの導入規則と除去規則のXにYを代入したものは、Yの導入規則と除去規則になる。したがって、Xの導入規則と除去規則を連続して適用した結果できる推論は、Yを用いて推論できる。つまり、このようなYとXがあるときには、XもYも保存拡張である。この場合、Xは他の語彙の意味を変えないのだから、意味の明示化に使用できる。つまり、XはYの意味の明示化に使用できる。(たとえば、「りんご」と「アップル」が完全に同義の表現だとしよう。このとき、「りんご」をもちいて、「アップル」の意味を明示化できる。つまり、「アップル」を使用した文に、「りんご」を代入して、「アップル」を使用した文の意味を明示化できるからである。)

 この言語からYを除去した言語(もとの言語の断片)をつくるとき、その言語において、Xは保存拡大であるかもしれないし、非保存拡大であるかもしれない。

 この言語において、Xが保存拡大であるとしよう。この場合Xは、他の語の意味を変えない。したがって、Xを含まない他の命題の意味を変えない。したがって、Xは他の命題の真理値を変えない。推論によって語「X」の意味を明示化できるとともに、対象Xに関する事実を明示化できる。ただし、この事実の明示化は、分析的な明示化である。

#日常生活や科学において、事実を解明するとは、新しい真なる命題を発見することである。対象「X」は語「X」の導入によって成立する。もし導入した「X」が保存拡大であれば、導入前の命題の真理値は変化しない。したがって、新しく真となる命題は「X」を含む命題だけである。「X」を含まない命題の中には、新しく真となる命題はない。

 「X」が非保存拡大であれば、「X」の導入は、導入以前に成立していた古い命題の真理値を変化させる。綜合的な新しい真なる命題を発見するためには、語「X」が非保存拡大でなければならない。

 例えば「H2O」は非保存拡大である。

   ① xは水である┣xはH2Oである  (H2Oの導入規則)

   ② xはH2Oである┣xは水素と酸素で出来ている (H2Oの除去規則)

   ③ xは水である┣xは水素と酸素でできている

最後の推論は、「H2O」を使用せずには不可能であった。それゆえに「H2O」は非保存拡大である。この推論③によって、水についての新しい真なる命題が発見され、水についての新しい事実が発見されたことになる。