17 理論的問いは、実践的問いの上位の問いになりうる? (20200618)

[カテゴリー:問答推論主義へ向けて]

 実践的な問いに答える推論の前提は、意図表現の命題であるか、因果関係を記述する真理値を持つ命題である。それゆえに、意図表現の命題は、実践的な問いの答えとして与えられうる、また因果関係を記述する真理値を持つ命題は、理論的な問いの答えとして与えられうる。したがって、実践的な問いの下位の問いは、実践的な問いであるか、理論的問いであるかのどちらかである。

 これに対して、理論的な問いに答える推論の前提は、すべて真理値を持つ命題になる。真理値を持つ命題は、理論的な問いの答えであって、実践的命題の答えではない。それゆえに、理論的な問いに答える推論の前提を実践的問いによって得ることはできない。つまり、実践的な問いの上位の問いが理論的な問いであることはない。

 それでは、前回の反例をどう考えればよいのだろうか?

前回の反例:「この木の実のなかはどうなっているのだろうか?」という理論的な問いに答えるために、「この木の実を割るにはどうしたらよいだろうか?」という実践的な問いを立てることがある。

厳密に言うならば、「この木の実のなかはどうなっているのだろうか?」という理論的な問いに答えるために立てる最初の実践的な問いは、「この木の実の中がどうなっているかを知るには、どうしたらよいのだろうか?」という問いである。その答えとして「この木の実を割って中を見ればよい」が得られ、それに基づいて「この木の実を割るにはどうしたらよいだろうか?」という実践的問いを立てることになる。これは次のような問答の流れになるだろう。

「この木の実のなかはどうなっているのだろうか?」(理論的問い)

「この木の実の中がどうなっているかを知るには、どうしたらよいのだろうか?」

「この木の実を割ればよい」

「この木の実を割るにはどうしたらよいのだろうか」

「木づちで叩こう」

「木の実の内部は二つに分かれている」

 私たちは、すべての理論的問いについて、「この問いの答えを知るにはどうしたらよいのだろうか」という問いを立てることができるが、この問いは実践的な問いであろう。なぜなら、この問いは、「…するためには、どうすればよいのか」という形式を持っており、この形式の問いは実践的問いだからである。この問いに答えるためには、実践的推論が必要である。

 この問いの答えが命令や指令だとすると、厳密に言えば、それは真理値を持たないが、しかし正誤はありうるだろう。例えば「うまく卵焼きを焼くにはどうしたらよいのだろうか」という問いの答えを実行して、卵焼きをうまく作れたら、その答えは正しく、うまく作れなければ、答えは正しくないと言える。この問いの答えが「よくかき混ぜるべし」という指令であるなら、この答えは真理値を持たない。もしこの問いの答えが、条件文「うまく卵焼きを焼くには、よくかき混ぜればよい」だとしても、後件が指令であるので、やはり真理値を持たない。

 反例についての考察をまとめよう。「この木の実を割るにはどうすればよいのだろうか?」という実践的な問いのより上位の問いが、「この問いの答えを知るにはどうすればよいのか?」という実践的な問いであるとすると、実践的ない問いのより上位の問いは、実践的な問いである。しかし、「この問いの答えを知るにはどうすればよいのか?」という実践的な問いのさらにより上位の問いは、理論的な問いである。したがって、実践的な問いのより上位の問いが、理論的な問いである場合が存在することになる。

 Q1「問いQ2の答えを知るにはどうすればよいのか?」という実践的な問いのより上位の問いは、問いQ2であるとしよう。この問いQ2は、理論的な問いである場合と実践的な問いである場合がある。ここではさしあたり、この問いQ2が理論的な問いであるとしよう。このQ1の答えをA1、Q2の答えA2とするとき、ここでは、Q2→Q1→A1→A2という二重問答関係は成立していない。なぜなら、ここでのQ1の答えA1は行為の指令であるので、理論的な問いQ2に答える推論の前提にはなりえないからである。

(ちなみに、このことは、Q2が実践的な問いであるときも同様である。Q2が「どうやって肉じゃがを作ればよいのか?」という実践的問いであるとするとき、Q1は「Q2の答えを知るにはどうすればよいのか?」となり、その答えA1が、たとえば「ググればよいのです」であるとき、A1は、A2を導出するときの前提にはならない。)

 ここではQ2→Q1→A1→A2という二重問答関係が成立しておらず、A1からA2に至る過程が単純な推論ではなく、すこし複雑な過程になる。例えば、その一つの場合は、A1からA2にたどり着くには、A1の指令を実行して、その結果から得られた命題がA2であるという場合である。Q2→Q1→A1(指令)→指令の実行→実行の結果→A2、というような流れになるだろう。

 次回からは、「二重問答関係」と、廣松渉のいう「四肢構造」の関係を分析しよう。