46 経験法則と理論法則の関係 (20211017)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

「経験法則」は現象の一般化であるのにたいして、「理論法則」は現象の原因を説明するもの、経験法則がなぜ成立するのかを説明するものです。

 ただし、「理論法則」は、一つの経験法則を説明するだけでなく、複数の経験法則を説明し、それまで無関係であると考えられていた複数の経験法則を同じメカニズムから説明するものです。この点では、「理論法則」はある経験法則を説明する仕方の<一般化>だと言えそうです。しかし、ある経験法則の説明において「理論法則」は成立しており、それが他の経験法則の説明にも適用可能であることが分かるということは、「理論法則」を得た後のプロセスになります。

 カルナップが挙げている例は、マクスウェル方程式です。それは電磁気の現象を説明するために仮定された法則ですが、その後光の説明にも適用可能であると分かったのです。それによって、電磁気と光を含む現象の説明理論へと一般化されたのです。このことは、説明する現象の一般化ともいえるし、理論法則の適用の一般化ともいえます。

 つまり、「経験法則」も「理論法則」も一般化と関係を持ちますが、「経験法則」は現象を一般化することによって成立する法則であるのに対して、「理論法則」は、ある経験法則を説明するために仮定されたあとで、その適用が他の経験法則へ一般化されることがあるという点で異なっています。

 事例(個別命題)を集めて、それをもとに一般法則(全称命題)を作るという一般化(これを「上向きの一般化」と呼ぶことにします)が通常の一般化であり、これによって「経験法則」が創られます。これに対して、法則を適用する事例を増やしていって、多くの事例がその法則に支配されていることを発見していくという一般化(これを「下向きの一般化」と呼ぶことにします)がありえます。これが「理論法則」がかかわる一般化です。これは、既に知られている法則がより一般的な法則であることを発見する過程です。

 <「経験法則」が現象の記述を行い、「理論法則」が経験法則の説明を行う、あるいは経験法則が記述している現象の説明を行う>と理解したいところですが、カルナップは、記述と説明をこのように峻別することに批判的です。

「説明と記述とのあいだに実質的な対立はなにもない。[…] より一般的な法則のコンテクストの中に現象を位置させるような記述が、現象に対して可能な唯一の説明の型を与える」(『物理学の哲学的基礎』沢田充茂、中山浩二郎、持丸悦朗訳、岩波書店、1968年、251)

 カルナップによれば、記述と説明は峻別できず、科学的な説明とは、ある種の記述であるということです。これと関係するとおもわれるのですが、カルナップは、「経験法則」と「理論法則」を原理的には、分けられないとも述べています。

「科学の法則を検討したときに、観察可能なものを扱う経験法則を、観察不可能なものに関わる理論法則から区別するが便利である、と思われた。観察可能なものを、観察不可能なものから区別する、はっきりとした線はなく、したがって経験法則を、理論法則から区別するはっきりした線もないのである。それにも関わらずこの区別は有益であることがわかった。」(同訳、285)

 理論法則を明らかにするために、次に、その「説明」の機能について考えたいと思います。