43 第1章を振り返る(3)表現の意味の明示化 (20211116)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

第一章の後半部部分「1.2 推論的意味論から問答推論的意味論へ向けて」においてブランダムの「推論的意味論」を説明し、問答推論によるその展開を説明しました。

 ブランダムは、語彙の意味は「実質的推論」によって明示化されると言います。しかし、他方でブランダムは、<論理的語彙は保存拡大性を持ち、他の語彙の意味を変えない>、それゆえに、<論理的語彙によって他の語彙の意味を明示化することができる>と言います。では、この二つの明示化はどのように関係しているのでしょうか。これらは、次のように関係しています。「実質的推論」もまた推論である以上は、論理的語彙を使用します。したがって、実質的推論によって言語表現の意味を明示化するとき、それは同時に、論理的語彙による明示化であるのです。

 「論理的語彙」は語彙の中で特殊なものです、また論理的語彙を用いた(論理学で語られるような)「形式推論」は、科学研究や日常生活で使用される「実質推論」とは明確に区別することができます。しかし、ブランダムは「形式推論」もじつは「実質推論」の一種であると考えています(『問答の言語哲学』46)。この関係は重要ですので、「論理的語彙」の意味について説明しておきたいと思います。「論理的語彙」について言えば、その意味は、論理的語彙の導入規則と除去規則という推論によって明示化が可能です。論理的語彙の導入規則と除去規則は、「形式推論」の命題です。しかし、これらの語彙や規則は、経験的な命題についての推論でも使用されます。そのとき、それらの推論は、論理的語彙の「実質推論」だと言えます。非論理的語彙を含まない「形式推論」の命題は、このような実質推論からの抽象によって得られるものです。したがって、論理的語彙についてももともとは、それを使用した実質推論が、論理的語彙の意味を明示化する推論であるといえます。

 では、実質的推論の妥当性(ブランダムはこれを「正しさ」と呼びます)は、どのように説明されるのでしょうか。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。