44 第1章を振り返る(4)実質推論の妥当性とは? (20211120)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

 ブランダムは、「何が正しい実質的推論であるか」への答えを社会的なサンクションに委ねていると思います。それは、ウィトゲンシュタインの提起した規則遵守の問題に対する答えを社会的なサンクションに委ねることでもあります(参照、MIEの第1章)。

 では、私たちはどう考えるべきでしょうか。私たちは問答推論的意味論の立場から、この問題を「何が正しい実質的な問答推論であるか」という問いに換えて問う必要があります。この問いに対しては、(第4章で論じた)問答関係が成り立つためには「問答論的矛盾」を避ける必要があり、そのための必然的な(あるいは超越論的な)問答推論が、正しい実質的問答推論であると答えることができます。しかし、実質的な問答推論にはこの基礎的な問答推論だけでなく、それ以外に無数の多様な問答推論があります。では、それらの実質的問答推論の正しさについてはどう考えればよいでしょうか。これについては、本書に続く予定の『問答の理論哲学』『問答の実践哲学』で詳しく扱うことになりますが、社会的サンクションが答えになるということ以上のことが言えるかどうか、まだわかりません。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。