83いちろうさんの質問への回答(5) (20220418)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

いちろうさんの質問13は次です。

「質問13 p.191下から5行目以降は、真理値を持たない文には「実現可能性」だけが大事なように読めますが、例えば「現在のフランス王を連れてこい!」という文は、実現可能性以前に、指示表現の指示対象が存在しないという問題もあるように思えます。平叙文の場合の3つの必要条件に「加えて」実現可能性の問題もある、という理解でよいのでしょうか。」

「現在のフランス王を連れてこい」という命令の発話が、適切なものであるためには、実現可能性が必要です。

指示表現の指示対象が存在することもまた、実現可能性が成り立つための必要条件に含まれていると考えます。

ここでのご質問は、発話の<意味論的前提>に関するものです。私はここで、発話の意味論的前提とは、「発話が真か偽であるために、あるいは適切か不適切であるための必要条件」であると述べました。

そして、これを3つに分けました。

「第一は、指示表現の指示対象が存在すること」

「第二は、対象に述定される述語が適切なものであること」

「第三は、発話を構成する語が有意味であること」

発話が真か偽であるとは、真理値を持つということです。命令や約束のように発話が真理値を持たない場合には、発話は適切であったり不適切であったりする(広い意味での「適切性」をもつ)と思われます。ただし、平叙文が真理値を持つとは限りません。例えば、「私は・・・と命令します」「私は…と約束します」などの平叙文は、真理値を持たず、適切性を持つからです。