幾何学については、無定義術語を導入して、公理系によってその意味を与えることができます。幾何学と同様に、数学の他の分野についても、無定義術語を導入して、公理系によってその意味を与えることができるでしょう。
では、物理学についてはどうでしょうか。
論理学と数学の公理系に特定科学の公理を加えて、推論規則には、論理学の推論規則だけを使用するとき、特定科学の理論の公理系を作ることができます。特定科学のこの公理系は、複数の仕方で構成できます。
構成方法1:推論規則の中に特定科学の用語を使用しなければならないものがあるならば、その推論規則の前提と結論から「前提⊃結論」という条件文を作り、これを特定科学特有の公理とすることができます。この場合、推論規則としては論理学の推論規則で充分です。
構成方法2:特定科学の用語を含む公理をすべて、推論規則に書き換えることもできます。この場合、公理としては、論理学の公理だけになります。さらにもし論理学も自然推論系にすれば、公理0個で、推論規則だけからなる特定科学の自然推論系を作ることができます。
この特定科学の公理系について、次のような原子論的説明と関係主義的説明が可能です。
#特定科学の公理系の原子論的説明
要素主義的にまず用語の意味を定義し、それに基づいて公理と推論規則を正当化し、それらに基づいて他の命題を定理として証明します。
この場合、用語の定義は、公理や推論規則を正当化することに尽きています。その特定科学の内部で語られるすべてのことは公理と推論規則から導出されるはずです。そうだとすれば、その用語で語られるすべてのことも公理と推論規則から導出されるはずです。したがって、用語の意味から、公理と推論規則では語れないことを語ることできません。用語の意味は公理と推論規則を正当化することに尽きているはずです。
#特定科学の公理系の関係主義的説明
他方で、特定科学の用語の使用法(意味)は、公理で完全に記述され、規定されていると見ることができます。この場合には、原子論的に、用語の意味を定義して、それによって公理を正当化する必要はありません。逆に非原子論的(関係主義的)に、公理が用語の意味の記述の全てです。公理系によって、用語の文脈的定義が与えられていると言うこともできます。
#特定科学の公理体系は観察文とどう関係するのか。
①<特定科学の公理体系によって、その用語(理論語)の使用法(意味)を完全に記述することができる>。しかし他方では、②<特定科学の理論語の使用法は、観察語をもちいた観察文と関係しなければならない>。さもなければ、それは観察可能な事実と関係を持ちえないからです。理論文と観察文は、両立可能でなければなりませんが、他方では矛盾することも可能でなければなりません。もし矛盾することが不可能ならば、理論は観察と無関係であることになるからです。<理論文と観察文が矛盾しえるためには、理論文から観察文を導出し、その観察文が、現実の観察文と矛盾することが可能であることが必要です>。
この①と②がともに成り立つことは次のようにして可能です。
特定科学の公理系のなかでは、理論語を含む真なる理論文は、ほぼすべて公理系で証明可能です(「ほぼすべて」という限定がつくのは、ゲーデルの不完全性定理が成り立つので、真であってもその公理系で証明不可能な式があるからです)。この公理系の中には、観察語やそれを含む観察文は、登場しません。しかし、私たちは理論文から観察文を導出することができます。これは、全称文からの単称文の導出として行われます。ただし、単称文から全称文を導出することはできないので、観察文から理論文を導出することはできません。
<私たちは、理論文にもとづいて、観察文(初期条件)から観察文(結果)を予測する。その予測された観察文を、現実の観察文でチェックする。このチェックに基づいて、理論文を維持したり修正したりする。これを繰り返すことによって、安定した理論文を得て、最終的にそれを公理系にまとめる。>
このようにして①と②が共に成り立ちます。 ①と②が共に成り立つことを説明するとき、特定科学の公理系の原子論的説明よりも関係主義的説明の方が有効だろうと考えますので、次に、それを明確にしたいと思います。