[カテゴリー:問答の観点からの認識]
#指示と照応は密接な関係にあります。
語による対象の指示が可能であるためには、その指示が反復可能でなければなりません。なぜなら、指示が成立するためには、その語がある対象を指示すること、あるいは指示できることを確認する必要があり、そのためには指示を反復して、指示できることを確かめる必要があるからです。
例えば、私たちが「あれ」で、ある対象Oを指示するとき、「あれ」でその対象を指示することを反復可能だと考えているし、実際に発話しないとしても、「あれ」を内語で発話して、対象の指示を何度か繰り返しているのかもしれません。このとき二度目の「あれ」は最初の「あれ」を照応しています。もし最初の「あれ」を照応していないのならば、「あれ」は他の対象を指示している可能性があり、もし同じ対象を指示しているのならば、それは最初の「あれ」の照応的反復になっていのです。
#照応の連鎖
ところで、照応関係は連鎖をなすことがあります。クリプキによる固有名の指示の因果説に対して、ブランダムは、固有名の指示を照応の連鎖(chains of anaphor)によって説明しました。Aさんが語句wによって対象oを指示するとき、この指示は、反復可能なこととして考えられています。もし反復できないのだとすると、指示できているかどうかを確認することができないでしょう。BさんがAさんのwの使用を反復して、対象oをwで指示したとき、そのwの使用は最初の使用の照応となっています。CさんがBさんのwの使用にならってoの指示をするとき、CさんもまたBさんのwの使用に照応しています。こうして照応は連鎖することが可能です。
#照応の推移性。
最初にZさんが語句wで対象oを指示したとします。Yさんは、Zさんによるwの使用に照応することによって、語句wの反復(あるいは他の語句「それ」など)によって、(Xさんがwでoを指示したそのZさんの発話した)wを介して、oを指示します。Xさんは、Yさんによるwの使用に照応することによって、語句wの反復(或いは、他の語句「それ」など)によって、(Yさんがwでoを指示したそのYさんの発話した)wを介して、oを指示します。
ここで、A (Yw, Zw)で「Yのwの使用は、Zのwの使用の照応である」を表示します。そうすると、照応の推移性を次のように表示できます。
A (Xw, Yw) ∧ A(Yw, Zw) → A (Xw, Zw) (照応の推移性)
これを一般化すると次のようになります。
∀(X)∀(Y)∀(Z) (A(Xw, Yw) ∧ A(Yw, Zw) → A(Xw, Zw))(照応の推移則)
ここでR (Xw, o)で「Xによるwの使用は、oを指示する」を表示すると、照応による指示は次のように表示できます。
A (Yw, Zw) ∧ R(Zw, o) → R (Yw, o) (照応による指示)
ここでYによるoの指示は、Zによるoの指示を介しているので、YとZによるoの共同指示だと言えます。
照応関係の推移性の一般化のために必要な条件は、何でしょうか。これを次に考えたいと思います。
その後で、指示が照応に基づくことを考察したいと思います。