99 定義は宣言型発話の一種である(A definition is a type of declarative utterance.) (202312228)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

(理論的問いに対する答えが真であること、とりあえず知覚報告「これは赤い」が真であること、を考察している途中です。それを「赤い」の学習に遡り、さらに「赤い」の定義に遡り考察している途中です。)

#定義発話の適合の方向

 語「水」の定義「水はH2Oです」の発話は、真理値を持つ主張型ではなく、宣言型発話になります。サールによれば、発話は「適合の方向(direction of fit)」を持ち、主張型は言葉を世界に適合させ、命令や約束は、世界を言葉に適合させようとします。宣言型発話は、この両方向の適合方向を持ちます。定義もまた両方向をもちます。したがって、定義は宣言型発話の一種だと言えます。

 ただし宣言型発話には、定義以外のものもあるので、宣言型発話の区別を論じます。

#宣言型発話の区別

宣言型発話は、次のようなものがあります。(これ以外にも、あるかもしれませんし、別のタイプの区分が可能であるかもしれません。)

行為宣言型:「開会します」「賞を授与する」

「…することを誓います」は、約束でしょうか、宣言でしょうか。(行為宣言型と行為拘束型発話(約束がこれに含まれる)との関係については別途考える必要がありそうです。)

主張宣言型:「アウト」「有罪とする」など審判、判決の発話

これは宣言であると当時に、事実の記述でもあります。野球の審判が「アウト」という場合のように、宣言であると同時に真理値も持ちます。「アウト」は事実についての記述に基づく判定です。

審判の間違いは、事実から判定を引き出すことではなく、事実についての記述の部分で間違うのです。事実から、ゲームの規則に基づいて、「アウト」という判定を引き出すのだとすると。という主張宣言型発話は、「アウト」という語の意味を前提としています。

命名宣言型:名づけの発話

個別的対象ないし対象のある集合が、ある語をその名前とすることを宣言することです。例えば、植物学者が、新しい種を発見して、それに命名するという場合です。

・定義宣言型:語や対象の定義を与える宣言。

「定義」とは、たとえば「正三角形」の定義は、「正三角形」という語の意味を確定すること、あるいは、正三角形である対象の集合を確定すること、です

*定義宣言型と主張宣言型との差異

主張宣言型では、使用する語「アウト」の意味はすでに成立しており、その適用について宣言するものです。それに対して、語の定義は、語の意味を前提とせず、定義によって語の意味を設定する。「定義」とは、対象の集合と名前を結合することです。

*定義宣言型と命名宣言型との差異

植物学者が発見した新種に命名するとき、命名の前に新種の同定はできています。それに対して色の名前の定義の場合、色名の定義の前に色の同定はできていません。

*宣言の相関質問

記述は理論的問いへの答であり、意志決定は実践的問いへの答えです。

行為宣言の相関質問は実践的問いです。

主張宣言の相関質問は理論的問いです。

命名宣言の相関質問は実践的問いです。

定義は?(これについては、次回に指示について考えた後で、考えたいと思います。

 何を前提するか真理値を持つか、相関質問の例
行為宣言行為タイプを前提する 「私は首ですか」 「誰を首にしますか」「執行猶予3年とする」
主張宣言事実と記述タイプを前提する宣言と独立に、その命題は真理値を持つ「アウトか、セーフか」「有罪か無罪か」
命名宣言対象を前提する宣言後、真理値を持つ「どう名付けますか」「名前を何にしますか」
定義宣言宣言後、真理値を持つ

#命名や定義と指示

命名や定義をするためには、対象ないし対象の集合を指示する必要があります。命名の場合には、命名に先立って指示を行っています。定義の場合には、定義と同時に指示を行っています。指示するとは、対象を指示することであり、指示対象が存在することを伴っているように見えますが、指示するとはどういうことであり、それはどのようにして可能なのでしょうか。これを次回に考えることとします。