相互覚知の成立時期

奈良からみた金環日食です。
これって、太陽を見ているのでしょうか。それとも月をみているのでしょうか。
 
 
06 相互覚知の成立時期 (20120521)
 
私が「共有知」と呼ぼうとしているものについては、書庫「世にも奇妙な「共有知」」を読んでいただければありがたいです。しかし、これは、通常「共有知」とか「相互知識」と呼ばれているものとは、少し異なっています。通常「共有知」と呼ばれているのは、xとyがいた時に、pを二人が知っていることを、二人が知っていることを、二人が知っている、・・・というような自体なのです。しかし、しかし、知や信念の主体は、最終的には、個人であるので、最後には「・・・・と、xは思っている」という表現になってしまいます。もちろん、yも同じように考えている可能性はあるのですが、そのこととも、最終的には、「xさんは、そう思っています」ということになります。これに対して、私は、個人主体の知に還元されないような、まさに一つの知を共有知と呼ぼうとしています。(残念ながら、それの証明は、まだ十分な形では出来ていません。)
 
前回、「共有知が生み出す個人では解けない問題」を、解決するために生み出されたのが言語であるという仮説をのべました。しかし、共有知というのは、(私の場合も、通常の場合も)命題知を共有することを意味します。しかし、ここでは言語が成立する前の共有知についての問題にしたいのです。つまり、そこで共有されているのは命題知ではありません。ある種の気づきのようなものです。それはグレゴリー・ベイトソンが「相互覚知」(mutual awareness)と呼んだものです。それは、人間と人間が出会い互いに相手の目を見た時には、互いに目があったことに気づくということです。つまり、相手が私を見ており、私が相手を見ていることを、二人はともに気づいており、そのことに二人はともに気づいており、・・・という自体のことです。
 
 そのような相互覚知を類人猿がもつだけでなく、家畜も持つだろうと、ベイトソンは述べています(ロイシュとの共著『コミュニケーション』)。しかし、私には、それは信じられません。相互覚知が成立するためには、相手が自分を見ていると気づくことが必要であり、自分に気づくことつまり、自己覚知が必要であり、しかし、牛などの家畜は、自己覚知を持たないからです。マカクザルもまた自己覚知を持たないかもしれません(板倉昭二さんの研究によると、自己覚知を持つのかもしれません。板倉昭二『「私」はいつ生まれるか』ちくま新書)。これを持つとはっきりと言えるのは、チンパンジーです。
 自己覚知(Self-awareness)というのは、鏡を見た時に自分が写っていることに気づくということです。これを調べるマークテストというのがあります。それは動物が寝ているあいだに、赤い印を額や耳につけて、目覚めたあとに鏡を見て、それに触るかどうかを調べる有名なテストです。チンパンジーはこのテストにパスします。つまり、ヒト族のチンパンジーは、自己覚知を持っているということです。それゆえに、ヒト族の中のヒト亜族のアウストロラロピテクスも自己覚知を持っていただろうとおもいます。
 
 では、チンパンジーが相互覚知を持つかどうかですが、私にはどのような実験をすれば、それがわかるのかわかりません。ただし、私はチンパンジーはおそらく相互覚知を持たないだろうとおもいます。
 自己覚知があるとしても、「相手が私を見ていることに私が気づく」ということが成立するとは限らないと思います。これは相手の気づきについての気づきがひつようだからです。マークテストをパスするよりももっと複雑です。さらに、「私が相手を見ていることを、相手が気づいていることに、私が気づく」ということも必要ですが、これはもっと高度です。私は、チンパンジーには、おそらくこのようなことは不可能だろうと推測するのですが、しかし根拠を示すことは出来ません。
 これと同様に、アウストラロピテクスにとっても、おそらく相互覚知
は不可能であっただろうと思っています。これもまた根拠はありません。打製石器をつくる様になった人間ホモ・ハビリスならば、それが可能になったかもしれませんが、おそらくは、もっと後だろうとおもいます。これもまた根拠はありません。
 言語の発生を、ホモ・ハビリスに想定する研究もあるようですが、多くの研究者は、もっと後の時代に想定しているようです。私は、相互覚知が引き起こす問題を解決するために、言語が登場したと考えますので、相互覚知の成立は、言語成立時期とあまり変わらないと考えます。したがって、言語の発生がもっと後ならば、相互覚知の発生ももっとあとになるでしょう。
 このような相互覚知によって、ある問題が生じて、それを解決するために言語が生み出されるというのが、私の仮説です。それを次回に説明します。