02 プライバシーは、問答に関する権利である (20200605)

[カテゴリー:問答の観点からの権利論]

(昨年秋にプライバシーについて考えていて、それが問答に関する権利だと気づいた。この考えをすべての権利に拡張できるのではないかと思いついて、「すべての権利は問答に関する権利である」と考えるに至った。そこで、まずプライバシーについての最初の思いつきを説明したい。)

#プライバシーを問答の権利に還元する

(注:アメリカの弁護士のウォレンとブランダイスは、論文「プライバシーの権利」(The Right to Privacy)(1890)で、プライバシーを「一人でいさせてもらう権利」(the right to be let alone)と定義した。ウェスティンが『プライバシーと自由』(1967)で、プライバシーの権利を「自己に関する情報に対するコントロールという権利」であると定義した。)

 これを踏まえて、プライバシーを二つに分けて、「一人にしておいてもらう権利」を「消極的プライバシー」とよび、「自己に関する情報に対するコントロールという権利」を「積極的プライバシー」と呼ぶことができるだろう。

A、消極的プライバシーについて

 プライヴァシーへの権利を認めることは、自分のことについて問われたときに、「知りません」とか「わかりません」と応えしても良い、ということではない。なぜなら、それは嘘を付くことだからである。プライヴァシーを認めるということは、それについて問われたときに、「それには答たくありません」とか「ノーコメントです」と応えることを認めるということである。あるいは他者には<問うてその答えを求める権利>がないような問いがあるということである。「問う権利がない問い」「答える義務がない問い」があるということである。

 ただし、問う権利とその答えを得る権利は、区別すべきである。例えば、警官に名前を問われたときに、市民には答えない権利があるが、しかし、警官に問う権利はあるだろう。警官は名前を問う権利を持つが、その答えを得る権利をもたない。市民同士であっても同様だろう。私たちは、他者に名前を尋ねる権利をもつのではないだろうか。ただし、答えてもらう権利はない。

 問いによっては、他者に問う権利がないものもある。例えば、就職の面接では、「あなたの本籍地はどこですか?」「家業は何ですか?」「支持政党はどこですか?」など問うてはいけないとされる問いがある。

B、積極的プライバシーについて

 私は私についての情報で構成されている。個人は、個人情報で構成されている。したがって、自分の個人情報を自分でコントロールすることは、自己支配、自己決定することにほかならない。プライバシーへの権利は、自己決定の権利の一部である。

 ところで、他者がもっている自己に関する情報をコントロールするとは、次のようなことであろう。

   ①他者が自分についてどんな情報を持っているのかを知ること

   ②他者が自分について持っている情報を訂正すること

   ③自分についての情報を他者がどのように扱うべきかを指示できること

①は、「あなたは、わたしについて何を知っていますか?」と問い、それに答えてもらう権利を持つことである。

②について説明しよう。「相手に訂正を強制する」とは、相手の同意なく、相手にAを行わせることである。言い換えると、<相手に個人の情報の訂正を行わせる権利がある>とは、「なぜ訂正しなければならないのですか?」という相手の問いに答える義務がなく、かつ、相手に「訂正してもらえますか?」と問う必要がなく(儀礼上は別にして)、端的に「訂正せよ」と命令できるということである。

 ただし、その情報が真であるなら、この限りではない。例えば、私が昨日駐車違反をしたとしよう。私が昨日駐車違反したことは、私の個人情報である。この個人情報を、私が昨日駐車違反しなかった、というように訂正することはできない。なぜなら、私が昨日駐車違反したことは事実だからである。事実である情報を修正することはできない。それは偽だからである。

③について説明しよう。「相手に個人情報をある仕方で扱うことを強制する」とは、相手の同意なく、相手にAを行わせることである。言い換えると、<自分についての情報を相手にある仕方で扱わせる権利がある>とは、「なぜそのように扱わなければならないのですか?」という相手の問いに答える義務がなく、かつ、相手に「しかじかに扱ってもらえますか?」と問う必要もなく(儀礼上は別にして)、端的に「しかじかに扱いなさい」と命令できるということである。

 ただし、このような権利があるのは、個人情報の内容や、相手の資格や、相手と私との関係、などに依存する。たとえば、その個人情報が、新型コロナウィルスに感染しているということであれば、医者は、患者の意向に関わらず、それを保健所に報告する義務があるだろう。

このように「プライバシーへの権利」は、個人情報に関する問答についての権利である。