30 犬は情動を持つのか? (20210126)

[カテゴリー:人はなぜ問うのか?]

(「構成主義的情動理論」はthe theory of constructed emotionの訳です。前回の見出しは、当初「構成的情動理論」と書いてしまいましたが、高橋洋訳に従って訂正しました。直訳すれば「構成された情動の理論」となりますが、「構成主義的情動理論」の方が、わかりやすいと思います。) 

犬も情動を持つのだろうか。『情動はこうして作られる』「第12章 うなる犬は怒っているのか」での、バレットのこの問いに対する答えは、次のようになる。。

「人間以外の動物は何らかの気分を感じるが、情動という点になると、現在の知見にもとづいて言えば、私たちが動物に投影しているに過ぎない。」(前掲訳455)

その理由は、バレットによれば、情動には、3つの要素(内受容、情動概念、社会的現実)が必要であるけれども、犬は、「内受容」をもつが、「情動概念」と「社会的現実」を持たないので、情動を持たない、ということである。人間は、この三つを持っているので情動を持つということになる。この3つを順番に説明したい。

 まず犬が「内受容」を持つことについて、バレットは次のように言う。

「動物は、内受容によって身体予算を調節しているのだろうか? 動物界全体を対象に答えることはできないが、ラット、サル、類人猿、犬などの哺乳類に関して言えば「イエス」と答えても問題ないだろう。動物は気分を経験しているのか?生物学、ならびに動物行動学の知見に基づけは、それに対する答えも確実に「イエス」である]440

 この引用を理解するには、「内受容」と「身体予算」と「気分」を理解する必要があるので、これも順番に説明したい。

 「内受容」について次のように言う。

「単純な快や不快の感情は、「内受容」と呼ばれる体内の継続的なプロセスに由来する。内受容とは、体内の器官や組織、血中ホルモン、免疫系から発せられるあらゆる感覚情報の脳による表象を意味する。」104

分かりにくいが、快不快の感情は、「内受容」に由来するが、「内受容」自体も表象である。それは「体内の器官や組織、血中ホルモン、免疫系から発せられるあらゆる感覚情報」の表象である。

(ここでの「感情」「内受容」「感覚情報」の関係は、ダマシオの「感情の認識」「感情」「情動」の関係に似ているように見えるが、用語の使い方が全く異なるので、この対応付けはうまくいかない。)

この内受容から生じるのは、気分(すなわち、快不快などの基本的な感情)である。

これについてバレットは次のようにいう。

「たった今、あなたの身体の内部で何が起こっているかを考えてみよう。そこには動きがある。心臓は動脈や静脈を流れる血液を送り出し、肺は空気で満たされたり空になったりし、胃は食物を消化している。その体内の活動は、快から不快、落ち着きからいらだち、さらには完全に中立的な状態に至る、基本的な感情のスペクトルを生んでいる。」105

バレットは、人間だけでなく他の哺乳動物も「気分」を持つと考える。この「気分」は、生物が持つ最初の心的なものであるかもしれない。(感覚や知覚は、非脊椎動物も持つが、気分を持たないだろう。哺乳類以外の脊椎動物が気分を持つかどうかはわからない。)では、哺乳類は、どのようにして気分をもつことになったのだろうか。

 それを次に見よう。