31 類推と条件反射  (20210710)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

(更新が遅れてすみません。帰納法について考えたり調べたりして遅くなりました。が、帰納法については次回に回して、今回は類推について書きます。)

前回、「③知覚報告だけからの推論によって得られない経験判断」の中に次のようなものがあると書きました。

a、知覚報告と③の経験判断からの演繹推論によって得られる経験判断

b、知覚報告と③の経験判断からの帰納推論によって得られる経験判断

c、知覚報告と③の経験判断からのアブダクションによって得られる経験判断

この中に含まれていないのですが、帰納推論に近いものとして、そしておそらく帰納推論よりも原初的なものとして類推があります。私たちは、知覚報告とその他の経験判断から類推によって経験判断を得ることがあります。

帰納推論の結論は、法則となるような命題であるのに対して、類推の結論は、個別的な現象についての命題になると思います。そして、帰納推論は、類推を前提して成立する場合が多いのではないかと思います。

#類推(アナロジー)とは、次のように考えることです。「火星と地球はよく似た惑星である。地球に人がいるように、火星に火星人がいるだろう。」類推とは、一般化すればつぎのような思考法です。

<二つの対象が類似しているとき、未確認の性質についても、その二つの対象が類似しているだろうと推測する>

これを対象ではなく、出来事のタイプ二つに適用すると次のようになります。

<もしタイプAの出来事の後にタイプBの出来事が生じるということが反復すると、タイプAの出来事が生じるのを認識したときに、次にタイプBの出来事が生じるだろうと推測する>

#類推と条件反射の関係

 このような類推は条件反射に似ているようにみえるのですが、類推は、条件反射とは異なるものです。なぜなら、条件反射は反射であって、主体の欲求や意図や推論は、刺激と反応の間に介在していないのに対して、類推には、それらが介在しているからです。

 意図しない連想があるように、意図することなく何かを類推するということがあるかもしれません。この場合も、類推は条件反射ではないでしょう。マドレーヌを食べて、何かを想起するとき、それは条件反射かもしれません。しかし、そのような連想は、類推ではありません。類推が推論だと見なされるのは、それが何らかの新しい信念を獲得することだからです。そのような新しい信念の獲得は、条件反射ではありません。条件反射は過去の経験の反復だからです。

 では、類推はオペラント反応でしょうか。オペラント反応によって獲得するのは、反復的な行動様式であると思います。しかし、類推は反復的行動様式ではありません。

#類推と帰納と問答の関係

類推と帰納は、<類推の結論は個別の事象についての判断であるのに対して、帰納推論の結論は一般的な法則である>という関係にあるのではないでしょうか。

類推は、「個別の対象がどのような性質を持つか」という問いに対して、類似した他の対象がある性質pを持つことをもとにして、「その対象は性質pをもつ」と答えることです。

これに対して、帰納は、「もし対象が性質pを持つならば、その対象は性質rをもつのか?」という問いに対して、いくつかの対象が性質pと性質rを持つことをもとにして、「もし対象が性質pを持つならば、その対象が性質rをもつだろう」言い換えると、「ある性質pを共有する対象が、別のある性質rを共有する」と答えることです。

次回は、この帰納推論について、また「自然の斉一性」について考察したいと思います。