38 擬似対象文  (20210729)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

「世界は無矛盾である」や「世界は斉一性をもつ」の真理性について検討するために、「分析的に真」や「アプリオリに真」などの新定義を提案しましたが、それらを適用するまえに、これらの文がカルナップのいう「擬似対象文」であることを確認したいと思います。(ここでの引用とページ数は、カルナップ『論理的構文論:哲学する方法』吉田謙二訳、晃洋書房、のものです。)

カルナップは、文を次の三種類に分けました。

  a現実対象文(real-object sentences)

   b構文論の文(syntactical sentences)

  c擬似対象文(pseudo-object sentences)

「現実対象文」とは、言語外の対象について記述する通常の文です。

「構文論の文」とは、構文論的用語について記述する文です。ある言語の構文論的用語とは、ある言語の「文」を定義し「直接的帰結」を定義するための用語です(カルナップによる「構文論の文」の定義が見つからないので、暫定的な説明です)。例えば、ある文が「妥当」であるとは、「当の文が前提の零集合の帰結であるときである」(44)とか、「反妥当」とは、「ある一定の言語体系の文’A’が、その体系の全ての文それぞれが’A’の帰結であるときである」(44)。例えば、p・¬pからすべての文が帰結するので、これは反妥当であることになります。ある文が「確定的(deteminate)」とは、「その文が妥当か反妥当かのいずれかであるときである」(45)。「確定的な文は、その真理値が当の言語の規則によって決定される文である」(45)。 また文が「不定的(indeterminate)」とは「その文が妥当でもなければ反妥当でもないときである」(45)。

「擬似対象文」とは、aとbの中間のものであり、形式上は現実対象文であるが、内容上は構文論の文であるようなものです。

 それぞれの例は次のようなものとなります。

  a「そのバラは赤い」(現実対象文)

  b「語「バラ」は事物語である」(構文論の文)

  c「そのバラは事物である」(擬似対象文)

このcは、形式上は現実対象文(実質様相の発話)ですが、内容的には構文論の文です。そこで、これをbのような構文論の文(形式様相の発話)に書き換えることができます。(カルナップによれば、哲学の命題は、bかcであり、擬似対象文で表現することから哲学的な問題が擬似問題として生じることが多くあり、それは構文論の文で表現することによって擬似問題は、解消します。自然の斉一性をめぐる問題、帰納法に関する問題もそのような問題なのかどうか、あとで考えたいと思います。)

ところで、カルナップは、このような擬似対象文には、「分析的」なものと「P―妥当的」(73)なものの二種類があると言います。この二つが、私が定義した「分析的に真」と「アプリオリに真」に対応するのかどうか、また「世界の無矛盾性」は「分析的」な擬似対象文で、「世界の斉一性」は「P-妥当的」な擬似対象文である、と言えるのかどうか、次に検討したいと思います。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

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