37「論理的概念」と「経験的概念」の区別:保存拡大性と非保存拡大性の区別(20210726)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

 前回の提案は「論理的概念」と「経験的概念」の区別に依拠していましたので、ここでは、この二つを、保存拡大的(conservative extensive)であるか否かで区別できることを示したいと思います。

 前々回述べたように、「論理的概念」と「疑問表現」は、保存拡大性をもつこと、つまりこれらを導入しても、他の語や文の意味を変えないことを指摘しました(詳しくは『問答の言語哲学』の第1章を参照してください)。

 これに対してほとんどの経験的概念は、保存拡大性を持ちません。これによって、論理的概念と経験的概念をおおよそ区別できます。「ほとんど」とか「おおよそ」と曖昧な言い方をするのは、保存拡大性をもつ語が、「疑問表現」と「論理的概念」に限られないこと、非保存拡大性をもつ語もまた「経験的概念」に限られないことによります。

 ここでは、保存拡大性と非保存拡大性の違いを、語の定義のありようから説明したいと思います。以下では、語を、明示的な定義がある場合と、文脈的な定義(暗黙的定義)がある場合と、定義ができない場合に分けて考えてみます。

明示的定義の導入は、保存拡大か?

「A=B」が「A」の定義であるとき、ここから簡単に次の導入規則と除去規則を作ることができます。  

   x=B┣x=A (Aの導入規則)

   x=A┣x=B (Aの除去規則)

これを連続適用すると

   x=B┣x=B

という推論が得られます。これは同語反復であり、Aの導入規則と除去規則を使用しなくても成立します。つまり明示的定義ができる語を導入しても、それ以前の語や文の意味を変えることはありません。

*ただし語の明示的定義が複数ある時には、その語の導入は、非保存拡大になります。

例えば、Aの明示的定義として、A=BとA=C(Aは名詞で、BとCは名詞句とする)が成り立つとしましょう。このとき、

   Aの導入規則:B┣A、C┣A

   Aの除去規則:A┣B、A┣C

   (B┣CあるいはC┣Bは、語Aの導入前には成立しないとする。)

が成り立ちます。この時、B┣Aおよび、A┣C、より、B┣Cが成り立ちます。推論B┣Cは、語Aの導入前には不可能であったとすると、語「A」の導入後には可能になります。つまり、語Aは、非保存拡大性をもちます。

#文脈的定義の導入もまた、保存拡大か?

語Aを含むある文pについて、次が成り立つとき、

   p≡r(rは語Aを含まない)

この同値文は、pの文脈的定義です。このとき次が成り立ちます。

   Aの導入期測:r┣p

   Aの除去規則:p┣r

導入規則と除去規則を連続適用すると、r┣rという同語反復になります。したがって、この場合、語Aは、保存拡大性をもちます。

ただし、語「A」の文脈的定義が複数ある時には、この語は非保存性を持ちます。今仮に、語Aを含むある文pについて、次が成り立つとしましょう。

   p≡r(rは語Aを含まない)

   p≡s(sは語Aを含まない)

   (r┣sあるいはs┣rという推論は語Aの導入以前には成り立たないとする。)

このとき、次が成り立ちます。

   Aの導入期測:r┣p、s┣p

   Aの除去規則:p┣r、p┣s

ここで導入規則r┣pと除去規則p┣sを連続適用すると、r┣sと言う推論が得られます。この推論が語Aの導入前には不可能であったとすると、語Aの導入後には可能になります。つまり、語Aは、非保存拡大性をもちます。

#定義できない語の非保存拡大性

語Aの明示的定義も文脈的定義もできない場合で語Aを含むある文をpとするとき、

   r┣p (pの上流推論)

   p┣s (pの下流推論)

このような上流推論と下流推論は可能です。この場合、r┣pおよびp┣sから、r┣sが推論可能です。この推論が語Aの導入以前には不可能であったならば、語Aの導入は非保存拡大性を持ちます。

ここで前回の「分析的真」「アプリオリに真」などの新しい定義の説明を一旦終えて、この定義を「世界は無矛盾である」や「世界は斉一性をもつ」に適用した命題の真理性について考えたいと思います。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

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