20 疑問詞「なぜ」の導入規則と除去規則 (20210816)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

前回、疑問表現の導入規則と除去規則を説明しましたが、疑問詞「なぜ」についての説明を忘れていましたので、それを補いたいと思います。『問答の言語哲学』第二章(pp120-121)で説明したことですが、「なぜ」の問いは、他の問いとは異なり、命題ではなく、推論そのものを答えとして求めている問いです。そして、この問いは次の三種類(出来事の原因を問う「なぜ」、行為の理由を問う「なぜ」、主張の根拠を問う「なぜ」)に区別できます。以下では、この三つ分けて説明します。

#出来事の原因の「なぜ」について

「p」が正しいことを知っていても、出来事pの原因を知らないので、それを問うことはあり得ます。

<原因の「なぜ」の導入規則>

  p┣「なぜpなのか?」

<原因の「なぜ」の除去規則>

  「なぜpなのか?」┣ Γ→p

<原因の「なぜ」の保存拡大性>

この導入規則と除去規則を連続適用すると、次の推論になります。

   p┣Γ→p

これは、pやΓを構成する命題の意味に関係なく成立しますから、原因の「なぜ」の問いがなくても可能な推論であり、原因の「なぜ」は保存拡大性をもちます。

#行為の理由の「なぜ」について

「p」(「p」は行為を表現する命題)が正しいことを知っていても、行為pの理由を知らないので、それを問うことはあり得ます。

<行為の「なぜ」の導入規則>

  p┣「なぜpなのか?」

<行為の「なぜ」の除去規則>

  「なぜpなのか?」┣ Γ→p

<行為の「なぜ」の保存拡大性>

この導入規則と除去規則を連続適用すると、次の推論になります。

  p┣Γ→p

これは、pやΓを構成する命題の意味に関係なく成立しますから、行為の理由の「なぜ」の問いがなくても可能な推論であり、行為の理由の「なぜ」は保存拡大性をもちます。

{この除去規則には、フレーゲ・ギーチ問題(真理値を持たない命題(「べき」「したい」などの概念を含む命題)の推論の妥当性についての説明の問題)に関係するので、ここで十分な説明のためには、フレーゲ・ギーチ問題の解決が必要です。これについては、別に改めて検討します。}

#主張の根拠の「なぜ」の問いについて

原因の「なぜ」や理由の「なぜ」とは異なり、主張の根拠の「p」が正しいことを知っているのに、主張「p」の根拠を知らないのでそれを問うということはありえません。なぜなら、根拠を知らなければ、「p」が正しいことが分からないからです。しかし、主張「p」について、「なぜ「p」なのか?」と問うことはあり得ます。それはどういう場合でしょうか。言い換えると、<「p」が正しいことを知っているが根拠を知らない>というのは、どういう場合でしょうか。それは、例えば次のような場合です。

  場合1:信頼する人から「p」が正しいと教えられた場合。

  場合2:「¬p」が他の命題と矛盾するので、「p」が正しいと考えるが、しかしその根拠を知らない場合。

(おそらくこれら以外の場合もあるでしょう。)

<主張の「なぜ」の導入規則>

  p┣「なぜpなのか?」

<主張の「なぜ」の除去規則>

  「なぜpなのか?」┣ Γ→p

<主張の「なぜ」の保存拡大性>

この導入規則と除去規則を連続適用すると、次の推論になります。

  p┣ Γ→p

これは、pやΓを構成する命題の意味に関係なく成立しますから、主張の根拠の「なぜ」の問いがなくても可能な推論であり、主張の根拠の「なぜ」は保存拡大性をもちます。