26 疑問表現の導入規則と除去規則と保存拡大性 (20210824)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

まず、疑問詞「どれ」について説明します。

前に(19回)でのべた疑問詞「どれ」の導入規則と除去規則は、次のものでした。

  「どれ」の導入規則:「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」

  「どれ」の除去規則:「どれがFですか?」、Γ┣ 「aはFです」

この除去規則は、前提が問いで始まり、結論がその問いの答えとなっているので問答推論であり、問答推論における「どれ」の除去規則になっています。

 しかし、導入規則については修正が必要です。導入規則は、推論の前提に問いがありませんので、問答推論になっていません。そこで、その問いを解決するために、結論の問いを立てる必要があるような問いを、前提の冒頭に追加すると例えば次のようになります。

  ・「FでありかつGであるものがここにありますか?」「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」

  ・「Fであるものがあるのなら、それはGだろうか?」「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」

冒頭に追加される問い(暗黙的な問いだが省略されていたと思われる問い)は、この二つの例のように多様です。

 一般に、問答推論の結論が問いになるというのは、つぎのような場合です。

  Q2、Γ┣Q1  

この問答推論は、Q2を解くために、Γという条件下では、Q1の答えを求めることが必要である、あるいは有用である、という関係を表示しています。このような場合、Q1の答えA1をもちいてQ2の答えを得ることが可能になるということです。したがって、A1が得られたならば、つぎのような問答推論が成立します。

  Q2、Γ、A1、⊿┣A2 (Γ、⊿は平叙文の列を表示し、A2はQ2の答えを表示する)

通常の認識の順序からすると、問いQ2を立ててから、Q1を立てることになりますが、Q1を解決することは、Q2の解決の役に立つだけでなく、他の多くの問いの解決にも役立つことが可能です。したがって、「どれ」の導入規則の場合、冒頭に追加すべき問いを、(緩やかな仕方ですら)一つの形に限定することはできません。

 ここでは仮に、次の導入規則と除去規則を考えてみます。

  ・「Fであるものは、ここにいくつありますか?」「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」

  ・「どれがFですか?」、Γ┣ 「aとbがFです」

これらを連続適用すると「どれがFですか?」は除去され、次の推論になります。

  「Fであるものは、ここにいくつありますか?」「Fであるものが存在する」、Γ┣ 「aとbがFです」

しかし、これは問答推論の条件を満たしていません。なぜなら、前提にある問いと結論が、問いと答えの関係になっていないからです。この結論「aとbがFです」は、当初の問い「Fであるものは、ここにいくつありますか?」に答えるためのステップとして求められたものです。したがって、この後のプロセスとしては、この結論「aとbがFです」を前提に加えて、次の問答推論が行われるでしょう。

  「Fであるものは、ここにいくつありますか?」「Fであるものが存在する」、Γ、「aとbがFです」┣「Fであるものは、ここに二つあります」

 この問答推論では、「どれがFですか」という問いの答えが結論になっています。そしてこの問答推論は、もし「aとbがFです」という前提が与えられたならば、もはや「どれがFですか?」という問いを使用しなくても成立します(「aとbがFです」という前提は、「どれがFですか?」という問いを相関質問としなくても、「aとbがFですか?」や「どれとbがFですか?」や「aとどれがFですか?」や「aとbは何ですか?」などを相関質問に取ることも可能です)。従って疑問詞「どれ」は保存拡大的です。

 疑問詞「だれ」「どこ」「いつ」についても同じように説明出来るでしょう。

 決定疑問文という疑問の形式についての、同じように保存拡大性を説明出来ると考えます(ここではその説明を省略します)。

前に(19回)に疑問表現の導入規則と除去規則を説明したときに、取り上げていなかった疑問詞「何」と「なぜ」について次に説明したいと思います。