44 観察文と理論文の区別について (20211013)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

カルナップは、『物理学の哲学的基礎』沢田充茂、中山浩二郎、持丸悦朗訳、岩波書店、1968年(原書、1966)で科学言語の用語を次の3つに分ける。

  1 論理語 (純粋数学の全ての用語もこれに含める)

  2、観察語、(O語)

  3 理論語、(T語)

ただし、カルナップは、観察語と理論語をハッキリと区別する境界がないことを認めている。(同訳、264f)

観察語には、「青い」「硬い」「冷たい」のような性質を表す言葉と「より暖かい」「より重い」「より明るい」などの関係を表す言葉があり、理論語には、「電荷」「陽子」「電磁場」などであり、「比較的単純で直接的な方法では観察できない存在者」をさす語が当てはまるといいます(参照、同訳265)。

カルナップは、この語の区別を用いて、科学的言語の文を次の3つに分けます。

 1 論理文、これは論理的語彙だけから成る。

 2 観察文、これは論理的語彙と観察語だけを含む。

 3 理論文、これは次の二種に分かれる。 

    a、混合文、これは観察語と理論語の両方を含む。

    b、純粋理論文、これは理論語を含むが、観察語を含まない。

次にカルナップは、経験法則」と「理論法則」の区別を導入します(参照、同訳、231-233)。

「経験法則」とは、観察からの一般化によって得られる法則です。カルナップをこれを二種類に分けます。一つは、「質的法則」であり、例えば「すべてのカラスは黒い」がそれにあたります。もう一つは、「量的法則」であり、例えばボイルシャルルの法則:(P×V)/T=R(圧力×体積/絶対温度=一定)や、オームの法則:E(V)=R(Ω)×I(A)(電圧=抵抗×電流)です。

「理論法則」とは、経験の一般化によっては得られない法則です。「理論法則」は、経験法則を説明するために仮説として設定される法則です。「分子」という理論語は、観察の結果ないしその一般化によっては、決して得られない概念です。

「観察からの一般化をいくら重ねても、ついに分子過程の理論は生み出されないであろう。このような理論は、別の仕方で引き出されねばならない。すなわち、事実の一般化としてではなく、仮説として述べられるのである。ついでその仮説は、経験法則のテストにある意味で類似した仕方でテストされる。仮説からある経験法則が導出され、次にこれらの経験法則が事実の観察によってテストされる。」236

「理論法則から導出された経験法則の験証は、理論法則の間接的験証を与えるのである。」237

「経験法則の場合には、験証はより直接的である。ところが理論法則の験証は間接的である。」237

カルナップによる観察語/理論語、観察文/理論文、経験法則/理論法則、などの区別は、一見すると明晰判明であるように見えるのですが、じつはそれほど単純明瞭ではありません。次にそれを検討したいと思います。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

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