[カテゴリー:問答の観点からの認識]
説明は、二つに分かれるように思われます。
①説明対象が何から構成されているかを説明すること
②説明対象が他のものとどのような関係にあるかを説明すること
前回述べた「還元による説明」は①に含まれます。今回述べようと思う「法則による説明」は②に含まれます。
#法則による「説明」
あることを説明するとは、それを<他のことと関係づけて>説明することです。その場合の一つのやり方が、それを<多くの類似の事例の中の一つとして>説明することである。例えばXをYと関係づけて説明することは、Xに似たものとYに似たものがあれば、両者の間に似た関係が成立するだろうということを含んでいる。つまり、ここでのXとYの関係は、Xに似たものとYに似たものの間に法則が成立することを含んでいます。したがって、<あることを説明するとは、それをある法則の一事例として記述することです>。
#「法則」とは何か
では、「法則」とは何でしょうか。文法的な形式としては、「全称条件文」です。そしてそれは真である必要があります。では、
「法則=真なる全称条件文」
と言えるでしょうか。残念ながら、これだけでは不十分です。たとえばヘンペルが例に挙げるように
「この籠の中の梨は、みな甘い」
これが真であるとしても、これは法則ではありません。仮に「この籠の中の梨は、みな甘い」が真であるとしても、それは「もしこの梨がその籠の中にあるとすれば、これは甘い」と主張する根拠とはならないでしょう。したがって、「法則=真なる全称条件文」とは言えないのです。法則は、それに含まれる事例の真理性を保証するものだからです。
ヘンペルは、次の提案をします。
「法則は、反事実的条件言明および、仮想法的条件言明(subjunctive statement)を成立させることができるのに対し、非法則はできない。」(ヘンペル『科学的説明の諸問題』長坂源一郎訳、岩波書店、1973年、9。ちなみに、ヘンペルの論文集Aspects of Scientific Explanation,1965、Free Pressの最後の章、第12章を訳したのが、この翻訳ですが、他の論文も興味深いです。)
これは、次の提案に言い換えられます。
「法則=反事実的条件言明を成立させることができる真なる全称条件文」
しかし、反事実的条件法の真理性は証明できないので、この定義を用いてある全称条件文が法則であることを証明することは出来ません。次にヘンペルが挙げるのは次の提案です。
「これらの非法則文は、いずれも有限個の個体的事象または、事例にのみ適用するということである。一般法則は無限に多くの事例をふくむものと考えられなければならないであろうか。」9
これを言い換えると、次になります。
「法則=無限に多くの事例を含む真なる全称条件文」
しかし、もしトキが数羽しか生存していないとしても、トキについての全称文はトキについての法則となり得えます。
ヘンペルは、ある全称条件文が法則であるための必要十分条件は何か、という問題を設定しましたが、それに対する解答を与えることができませんでした。
次に、「法則とは何か」に問答の観点からアプローチしたいと思います。