46 第3章を振り返る (20211122)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

 3.1では、命題の意味が相関質問との関係で規定されるように、発話の発語内行為は、相関質問との関係で規定される(cf.174)、ということを説明しました。この意味で、質問型発話は、他の発語内行為とは全く異なる発語内行為なのです。

 しかし、3.1の最後では、全ての発話が質問の意味を持つことを説明しました。「どのような発話であれ、聞き手がそれを受け入れてくるかどうかを問う暗黙的な質問になっている。この暗黙的な質問が、会話を継続させるように機能している。」178

 では、この二つはどう関係するのでしょうか。前者の質問は、発語内行為としての質問であり、後者の質問(全ての発話がもつ依頼や質問の働き)は、「発語媒介行為の一部である」(197)と思われます。

 3.2では、ヘイトスピーチの差別的な働きを言語行為としてどうとらえるか、という問いを検討する過程で、サールの「発話行為」「命題行為」「発語内行為」「発語媒介行為」という区別に「前提承認要求」という行為を加えることを提案しました。

 発話の前提には、論理的前提、意味論的前提、語用論的前提などがある。話し手はこれらの発話の前提を承認しているが、聞き手はそれらを理解しているとしても承認しているとは限らない。発話を行うことは、それらの前提の承認を聞き手に要求するという行為(前提承認要求)を含んでいる。

3.2の最後に書いたが、発語内行為は、意図的発語媒介行為前提とする(それを実現するための)実践的推論の結論となっている。前提承認要求は、この実践的推論において前提として働いている。

<発話の実践的推論>

  •    大前提:発語媒介行為の意図
  •    前提:真理性承認要求(ここには論理的前提、意味論的前提などの真理性承認要求も含まれる)
  •    前提:誠実性承認要求
  •    前提:正当性承認要求   
  •    ∴ 結論:発語内行為

<発話の実践的推論:ヘイトスピーチの例>

  •    大前提:発語媒介行為の意図「工事阻止行動をやめさせよう」
  •    前提:真理性承認要求「反対している人たちは、無教養な土人である」
  •    前提:誠実性承認要求「私は警官としての職務に忠実である」
  •    前提:正当性承認要求「無教養な土人は政府に文句を言う資格はない」    
  •    ∴ 結論:発語内行行為「土人が文句を言うな」(命令型発話)

3.3では、コミュニケーション(指示や述定へのコミットメント)の不可避性が、問答の不可避性に基づくことを説明しました。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。