72 佐々木さんの質問への回答(2) 概念実在論とは何か?(20220106)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

ブランダムはTMDで「概念実在論」を次のように説明しています。

彼は、客観的世界について、次のように語ります。

「(1)物が客観的に存在する仕方は、確定的で規定されていなければならない。」(TMD 179)

これは、とりあえず受け入れられるでしょう。

「(2)規定性の本質は、様相的に堅固な排除である。」(179)

ある規定性は、他ではないという排除によって、成り立っています。

ここで「様相的に堅固な(modally robust)」とは、反事実的条件法の使用を認めるようなもの、ということです。たとえば「このリンゴは赤い」からは、「もしこのリンゴがゴールデンデリシャスならば、このリンゴは赤くないだろう」とか「このリンゴをわたしが買っていなかったとしても、このリンゴは赤いだろう」とか「明日になっても、このリンゴは赤いだろう」というような反事実的条件文が帰結することをみとめることです。

「(3)実質的両立不可能性関係は、様相的に堅固な実質的帰結関係を生じさせる。」(181)

これは、例えば、「これは四角形である」と「これは三角形である」とは両立不可能であり、この両立不可能性から、「もしこれが三角形であるならば、これは四角形ではない」という反事実的条件文が帰結するということです。ちなみに、ブランダムが最も基本的な論理関係とみなすものが、「両立不可能性」と「含意」ですが、ここで示唆されているように、おそらくは「両立不可能性」の方がより基礎的なものと考えられていると思われます。

「(4)概念的に分節化されていることは、両立不可能性と帰結の実質的関係にあることである。」(181)

これを言い換えるならば、「対象が概念的に分節化されている」(あるいは「対象が概念的である」ということ)ということは、「それが他の対象と実質的な両立不可能性や帰結の関係にあることである」ということです。この(4)は、「概念的」ということのブランダムの定義だと考えてよいとおもいます。

このように考える時、客観的世界(ないしその中の事物)は、「概念的」だといえます。このような主張を、ブランダムは、「概念的実在論」と呼びます。(「概念的実在論」のこのような理解は、後のSpirit of Trustでも変わりません。)

ブランダムは、この「概念実在論」は、(3)からもわかるように、様相実在論と結びついています。「この定義を前提すると、ヘーゲルの概念実在論は、様相実在論によって認められる形式として見られうる。」181、「様相的に規定された事態:可能性と必然性」を理解することなしには、ふつうの記述的述語と命題も理解できない、と言います。つまり、ふつうの記述においても、様相概念がつねに暗黙的に働いているということです。

これで「概念実在論」の説明を終わってもよいのですが、ブランダムは、これからさらにヘーゲルの「客観的観念論」を次のように説明しています。

「ヘーゲルは、様相実在論は客観的観念論を要求すると主張するだろう」(181)

これを確認しておきたいと思います。ブランダムは、主観と客観を次のように説明します。

「(5)主観と客観の概念は、規定された否定ないし実質的両立不可能性の用語で定義されうる。」(182)

主観(主体)と客観(対象)は、「両立不可能性概念」の違いによって次のように説明されます。「一つの対象は、客観的に両立不可能な性質を同時に示すことはできないし、一つの主体は、主観的に両立不可能なコミットメントを同時に引き受けるべきではない(ought not)。」(182)

ところで、客観的両立不可能性と主観的両立不可能性は、コインの両面であり、相互に意味論的に依存している。つまり、「一方は他方への関係の中でのみ理解可能である。」(182) ブランダムは、これが「意識の主観的極と客観的極の関係に関する、ヘーゲルの客観的観念論の本質」(182)であると考えています。

要するに、「概念実在論」とは、世界が概念的に構造化されているということです。この「概念実在論」は、最初は、<私たちの認識とは独立に客観的世界があって、それは概念的に構造化されている>という主張として導入されます。確かに、ヘーゲル『精神現象学』の最初の「感覚的確信」と「知覚」の章までは、このようなものなのですが、「悟性」の章からは、客観と主観の結合(客観的観念論)が考えられるようになります。したがって、「概念実在論」もまた、私たちの認識から独立な世界についての理解ではなく、客観的観念論のなかに統合されるようなしかたで、理解し直されることになります。ブランダムは、「概念実在論」の理解がこのように「客観的観念論」へと変化していくことに、賛成していると思われます。

以上をとりあえず、「概念実在論」の説明として、次にハーバーマスによるその批判を確認したいとおもいます。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

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