109 理論的問答と実践的問答と宣言的問答の区別について(Regarding the distinction between theoretical questions and answers, practical questions and answers, and declarative questions and answers) (20240305)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

理論的問いの答は、記述であり真理値を持ちます。それに対して実践的問いの答えは、意志決定であり真理値を持たず、適/不適の区別を持ちます。宣言的問いの答えもまた真理値をもたず、適/不適の区別を持ちます。この点で、実戦的問答と宣言的問答は同じです。ただし、宣言は、意志決定ではなく、事実を設定すること、ないし事実を構成することです。つまり、宣言的問いの答えは、構成規則です。それに対して、実践的問いの答えは、意志決定であり、これは行為の統制規則です。この違いを重視して、問答全体を、理論的問答、実践的問答、宣言的問答の3つに区別することができます。

 この区別について、もう少し説明を加えます。

*宣言型発話は、事実を設定する、あるいは事実を構成する発話であり、それは構成的規則となります。以前(99回)に、宣言型発話を、行為宣言型、主張宣言型、命名型、定義型の4つに区別しました。この中で、命名型と定義型が語の意味を構成する構成的規則になることは理解できるでしょうが、行為宣言型と主張宣言型については、説明が必要かもしれません。

 例えば、行為宣言型発話である「開会します」は、これによって、会議が開会され、これによってその後の発言や行為は会議を構成します。この宣言は、会議を構成する規則として機能します。また例えば、主張宣言である審判による「アウト」という発話は、野球の規則そのものではなく、野球の規則にしたがった「アウト」の使用例であるかもしれませんが、他方で、その審判が「アウト」と宣言することによって、その後の試合の進行、選手たちの行動の意味が規定され、行動が規定されます。つまり、「アウト」の宣言は、その試合を構成し、宣言後も、その試合が終わるまで、試合を構成し続けます。それはその試合において構成規則として機能し続けます。

*宣言型発話の区別の修正

 ここで、宣言型発話の区別について二点修正しておきたいとおもいます。

 一つは、<命名型と定義型を区別せず、二つを合わせて定義型とする>ということです。。命名は、ある対象に固有名を割り当てることです。それは固有名の定義であり、定義の一種であるとみなせるでしょう。定義には、固有名の定義だけでなく、一般名、形容詞、動詞、副詞などの定義もあります。(ただし、命名は、一つの新し名前をつくることですが、その他の定義の場合には、既に使用されている語に、新しい意味を与えたり、明確な意味を与えたりすることである、という違いがあります。)

 もう一つは、<表現型発話を宣言型発話の一種と考え、「表現型宣言」と呼ぶ>という修正です。サールの説明では、宣言型発話の適合の方向は両方向ですが、表現型発話は、適合の方向をもたない、という違いがあります。表現型発話は、語と世界の関係を述べていないということになります。しかし、そうでしょうか。表現型発話は、<世界(世界の出来事、状態)についての話し手の態度>を表現しています。例えば、「合格おめでとう」は(主張とは違って)真理値を持たず、(命令や約束とは違って)世界を変えようとするものでもありません。むしろ世界に対する話し手の態度を設定するものです。相手が合格していなければ無効ですが、合格していれば、その意味で両方向の適合の方向を持つと考えることができます。

 このような表現型宣言もまた構成規則であると言えます。「合格おめでとう」と言うことによって、相手が合格したという事実についての話し手の態度を設定し構成します。それは構成規則として機能します。他者の資格や尊厳を承認する発話が、もし社会制度を前提としているならば、それは主張型宣言であると言えるでしょうが、もし社会制度を前提としないならば、それは表現型宣言だといえるでしょう。

ところえ、理論的問いの答えは真理値を持ち、実践的問いと宣言的問いの答えは適切性を持ちますが、実践的問いの答えは統制的規則であり、宣言的問いの答えは構成的規則です。したがって、それらの適切性は異なっていると推測します。これについて、次に考えたいと思います。

(その後で、理論的な問いに対する答えの真理性を、定義に依拠して説明すること(「真理の定義依拠説」)への予想される批判を検討したいと思います。)