108 非主張型発話の相関質問について(Regarding correlative questions for non-assertive utterances) (20240302)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

見出しのテーマに入る前に、前回の説明で抜けていた、表現型発話の前提と適切性の区別についての説明をしたいと思います。

「合格おめでとう」という表現型発話は、相手が合格したということが事実であることを、前提としています。もし相手が合格していなかったとすると、この発話は、不適切なものになるのでしょうか

それとも、適切でも不適切でもなく、無効になるのでしょうか。「合格おめでとう」は、相手が合格したということを意味論的に前提していると言えるでしょう。したがって、もし合格していなければ、この命題は偽なる命題を前提としており、発話は「無効」になると考えます。それに対して、もし相手が不合格であることが事実であるとき、「不合格おめでとうございます」と言えは、その発話の意味論的前提は成り立ちますが、その発話は不適切な発話だと言えます。

 発話の満たすべき意味論的前提と語用論的前提を充たす発話を「有効」な発話と呼び、充たしていない発話を「無効」な発話と呼びたいと思います。(この場合、もし「誠実性」を語用論的前提とみなすと、不誠実な発話は、無効になります。しかし、それでは嘘をつくことが不可能になります。不誠実な発話であっても、発語内行為は成立するのです。「誠実性」をどう扱うべきか、別途検討の必要があります。)

#本題に戻ります。非主張型発話の相関質問は、どのようなものになるでしょうか。

 約束発話は、「…してくれますか」という問い(これは依頼の発話でいいか可能です)に対する「…します」という返答として成立するでしょう。命令発話は、「…しましょうか」という問い(これは約束の発話で言い換え可能です)に対する「…してください」という返答として成立するでしょう。

 では、「合格おめでとうございます」の相関質問は何でしょうか。「合格しましたよ。どう思いますか(感想はいかがですか)」という問いへの答えだと言えそうです。もちろんこのような問いが明示的に行われる必要はなく、「合格しました」という報告に暗黙的に含まれる場合が多いでしょう。しかし、合格した人を目の前にするとき、「どう思いますか」という問いかけに答えることが求められていると暗黙的に感じるのではないでしょうか。

#宣言型発話の相関質問は、次のようなものになるでしょう。

行為宣言型:「開会します」「賞を授与する」

  「そろそろ会議を始めませんか」「はい、開会します」

  「だれに賞を授与しますか」「Xさんに賞を授与します」

これらの問答は、場合によっては(まだ開会の宣言を行っていないときには)、この問いは答えとして約束の発話を求める問いと、約束発話の答えとなります。場合によっては、この問答は、宣言を求める問いと、宣言する答えとなります。

主張宣言型:「アウト」「有罪とする」など審判、判決の発話

  「彼はアウトですか、セーフですか」「アウト」

という問答は、場合によっては、真理値を持つ命題を答えとする理論的問いと、事実の記述であり真理値を持つ答えであることが可能です。ある場合には、宣言を求める問いと、真理値を持たない宣言発話の答えであることが可能です。

命名宣言型:名づけの発話

  「この子の名前は何ですか」「この子の名前はソクラテスです」

この問答も、主張宣言型の場合と同様に、ある場合には(その子の命名がまだ行われていない時には)、命名を問う問いと、命名の答えであり、ある場合には(命名が行われた後では)、理論的問いとそれに対する記述の答えです。

・定義宣言型:語や対象の定義を与える宣言。

「水とは何ですか」「水とはH2Oです」

この問答も、主張宣言型の場合と同様に、ある場合には(「水」の定義がまだ行われていないときには)、定義を求める問いと、定義を与える答えであり、ある場合には(「水」の定義が行われた後では)理論的問いとそれに対する記述の答えである。

では、これらの宣言発話の適切/不適切の区別は、どのようなものになるでしょうか。これまで、宣言型発話を答えとする問答を実践的問答に含めて論じた個所もあったと思いますが、宣言的問答を実践的問答から区別すること、つまり問答全体を理論的問答、実践的問答、宣言的問答、の3つに区別した方がよいのではないかと考え始めています。これを次に検討したいと思います。