カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]
前回述べた大きな欠陥は、導入規則と除去規則に関係しています。これまで論理結合子と疑問表現について、導入規則と除去規則を述べてきましたが、それらは、ゲンツェンの説明に依拠したものでした。つまり、論理結合子については、ゲンツェンの説明を踏襲し、疑問表現についてはそれを模倣し拡張して説明しました。しかし、ゲンツェンが示したのは、通常の論理学の自然推論系を構成するためのものでした。それに対して私がここでしなければならないのは、問答推論システムの自然推論系を構成するときに必要になる導入規則と除去規則です。したがって、これまで説明してきた導入規則と除去規則の見直しが必要になります。(おそらく論理的語彙と疑問表現の保存拡大性という結論を変える必要はないと思いますが、その時に依拠する導入規則と除去規則については修正の必要があるでしょう。)
問答推論システムでは、通常の推論にはない疑問文を、結論の相関質問として、前提に加えることになります。
Q、Γ┣p (Γは平叙文の列、pはQへの答え)
これが基本的な推論の形になります。従って、論理結合子の導入規則と除去規則も前に述べたものを修正する必要があります。前には次のように述べました。
∧の導入規則:p、r┣p∧r
∧の除去規則:p∧r┣p
p∧r┣r
これらは、それぞれ、次のようになるでしょう。
∧の導入規則:Q、p、r┣p∧r
∧の除去規則:Q、p∧r┣p
Q、p∧r┣r
Qの具体例としては、次のようなものが考えられます。
∧の導入規則:?(p∧r)、p、r┣p∧r
∧の除去規則:?(p)、p∧r┣p
?(r)、p∧r┣r
この場合、∧の導入規則と除去規則を連続して適用するとどうなるでしょうか。
?(p∧r)、p、r┣p∧r
?(p)、p∧r┣p
この二つを機械的に結合すれば、つぎのようになります。
?(p∧r)、p、r、?(p)┣p
結論pの相関質問?(p)を推論の最初に移します。
?(p)、?(p∧r)、p、r┣p
次に、p∧rが除去されたのだから、その相関質問?(p∧r)も除去すると次のようになります。
?(p)、p、r┣p
この推論は、冗長ではありますが、間違いではありません。そして、この推論は、「∧」を使用しなくても成り立つ推論です。したがって、「∧」は保存拡大性をもちます。
次に「∨」を検討しましょう。前に述べたのは、次のような規則でした。
∨の導入規則:p┣p∨r
∨の除去規則:p∨r、p→s、r→s┣s
これらは、問答推論では、それぞれ、次のようになるでしょう。
∨の導入規則:Q、p┣p∨r
∨の除去規則:Q、p∨r、p→s、r→s┣s
Qの具体例としては、次のようなものになるでしょう。
∨の導入規則:?(p∨r)、p┣p∨r
∨の除去規則:?(s)、p∨r、p→s、r→s┣s
この場合、∨の導入規則と除去規則を連続して適用するとどうなるでしょうか。
?(p∨r)、p┣p∨r
?(s)、p∨r、p→s、r→s┣s
これらを機械的に結合すれば、次のようになります。
?(p∨r)、p、?(s)、p→s、r→s┣s
結論の相関質問?(s)を推論の冒頭に移すと、次のようになります。
?(s)、?(p∨r)、p、p→s、r→s┣s
次に、p∨rが除去されたのだから、その相関質問?(p∨r)も除去すると次のようになります。
?(s)、p、p→s、r→s┣s
この推論も、冗長ではありますが、間違いではありません。そして、この推論は、「∨」を使用しなくても成り立つ推論です。したがって、「∨」は保存拡大性をもちます。
次に「→」を検討しましょう。以前には、次のように述べました。
→の導入規則:p┣r ⇒ p┣r→p
→の除去規則:p→r、p┣r
これらは、問答推論システムでは、それぞれ、次のようになるでしょう。
→の導入規則:Q1,p┣r ⇒ Q2,p┣r→p
→の除去規則:Q、p→r、p┣r
Qの具体例としては、次のようなものが考えられます。
→の導入規則:?(r),p┣r ⇒ ?(r→p),p┣r→p
→の除去規則:?(r)、p→r、p┣r
この場合、→の導入規則と除去規則を連続して適用するとどうなるでしょうか。
?(r),p┣r ⇒ ?(r→p),p┣r→p
?(r)、p→r、p┣r
これらを、機械的に結合すれば、次のようになります。
?(r),p┣r ⇒ ?(r→p),p、?(r)、p┣r
結論rの相関質問?(r)をそれぞれの推論の冒頭に移すと次のようになります。
?(r),p┣r ⇒ ?(r)、?(r→p),p、p┣r
次に、r→pが除去されたのだから、その相関質問?(r→p)も除去すると次のようになります。
?(r),p┣r ⇒ ?(r)、p、p┣r
次に、後の推論の冗長な前提pを一つ除去すると次のようになります。
?(r),p┣r ⇒ ?(r)、p┣r
この推論(より正確にはシーケント計算)も、冗長ではありますが、間違いではありません。そして、この推論は、「→」を使用しなくても成り立つ推論です。したがって、「→」は保存拡大性をもちます。
次に最後に残っている「¬」を検討したいと思いますが、これは少しむつかしそうなので、次回にします。