15 言語の起源と問答 (20210406)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

(前回までは、『問答の言語哲学』の内容紹介をしてきました。ご批判、ご質問をぜひお願いします。ブログのコメント欄に書きにくければ、(philosophy(アット)irieyukio.net へ)メイルを送ってください。

今回からは、ご意見への回答、この本で書き残したこと、あるいは出版後に言語に関して考えたことを少しずつ書いていきます。)

チョムスキーは人間の言語に共通の普遍文法を想定し、それに対応する生得的な言語能力の存在を想定していましたが、人間とは異なるコミュケーション方法をとる知性システムがあるかもしれません。その知性システムは、人間の言語能力とは異なるメカニズムを持つかもしれません。しかし、その場合でも、おそらく言語は他者とのコミュニケーションに基づいているでしょうから、人間とは異なるコミュニケーションシステムであっても、関連性理論が指摘した「情報意図」と「伝達意図」の区別があるだろうと推測します。(この二つの意図については、『問答の言語哲学』第2章で論じました。)鳥のさえずりや狼の遠吠えには、ひょっとすると情報意図はあるかもしれませんが、伝達意図はないと思われます。人間の言語ないしそれに似た言語システムが成立するためには、伝達意図の成立が不可欠です。

二日前に別のカテゴリーで、思弁的な予測として次のように言いました。

<言語の始まりは、問いと答えの成立になると思います。言語は、他者に伝えようと意図することに始まります。その意図が明示的になるのは、問いに対して答える時です。相手が何かを求めて発声し、それに応えて発声するとき、その発声は、相手の求めに対する応答であると同時に、応答であることを相手に伝えようと意図するものになります。>

ここでの伝達意図の発生についての予測を、もう少し詳しく説明したいとおもいます。

相手が何かを求めて発声していると思うとき、相手の発声についてのその理解が正しくなかったとしても、私はそれにどう対応すべきかを考えて応答する必要があります。相手が何かを求めて発声しているのかもしれないと疑うだけでも、私にはどう対応すべきかを考える必要が生じます。そして、相手に対する応答は、何らか内容を相手に伝えようとしているのだと思わる可能性をもちます。つまり、伝達意図を持ってしまうのです。つまり、伝達意図は、相手の問いかけに答えようとすることにおいて成立するのです。もし、言語が伝達意図の成立によって成立するならば、言語は相手が何かを問いかけているかもしれない思ったときに、それへの応答において成立するのです。

・相手が何かを伝えようとしていると考える時、それが仮に間違っていたとしても、相手の伝達意図を想定して、それに答えることが必要になります。なぜなら、相手の伝達意図を理解して、それを無視したと理解される可能性があるからです。伝達へのコミットメントが不可避に生じるのです。

・問答において、互いの伝達意図は明示化されています。なぜなら、問いに答える時には、答える者に答える意図があるならば、答える者には、伝達意図があるからであり、また問う者が、相手に答えを求める意図があるならば、問う者には、伝達意図があるからです。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です