28 部分構造論理の意味の保存拡大性について (20210827)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

論理的結合子の「保存拡大性」とは、次のような意味でした。<その論理結合子を導入規則と除去規則を連続適用したときできる推論が、その論理結合子を使用する以前にも可能であった推論である>と言うことでした。

これをもう少し明晰に証明するために、<ある論理的語彙を導入規則と除去規則を連続適用したときできる推論>を、<その推論が他の論理結合子を含んでいる場合(場合1)>と<含んでいない場合(場合2)>に分けます。

場合1には、論理的には、次のような可能性があります。<論理結合子C1の導入規則と除去規則を連続適用したときできる推論が、論理結合子C2を含んでおり、逆に、論理結合子C2の導入規則と除去規則を連続適用したときできる推論が、論理結合子C1を含んでいる>、かつ<C1とC2は、それ以外の語彙の意味を変化させている>、という可能性ないし怖れがあります。

しかし、場合1に当てはまるのは、論理結合子「∨」だけであり、その他の論理結合子や疑問表現は、場合2になります。つまり、それらの導入規則に除去規則を連続適用してできる推論は、どれも論理結合子を含まない推論でした。そして、「∨」の導入規則に除去規則を連続適用してできる推論は、「?(s)、p、p→s、r→s┣s」であり、他の論理結合子(→)を含んでいる(参照24回)のですが、ただし、「→」の導入規則に除去規則を連続適用してできる推論は、他の論理結合子を含んでいません。それゆえに、もし「→」が保存拡大性を持つのならば、「∨」も保存拡大性を持つと言えます。

それゆえに、問題は、場合2の表現が、保存拡大性を持つと言えるかどうかです。例えば「∧」について確認しましょう。「∧」の導入規則と除去規則を連続適用して得られる推論は次でした。

  ?(p)、p、r┣p

これは正しい問答推論ですが、論理結合子を含んでいません。ただし、p┣pという同一律を推論規則として成立する推論だと言えます。問答論理学では、この同一律は、相関質問を前提に加えて、

  ?(p)、p┣ p

と表記すべきだろうと思います。

 通常のシーケント計算では、p┣pに、構造規則「弱化」を適用して、p、r┣pを証明することができます。私は、ここで問答論理学でのシーケント計算の規則を考えて、それを明示すべきなのですが、それができることを想定して説明します。つまり、?(p)、p┣pから ?(p)、p、r┣ pが証明できるだろうと想定します。

 つまり、この問答推論は、p┣pというシーケント計算の公理(同一律)と構造規則「弱化」という二つの規則によって正当化されます。また、この証明の過程で、構造規則「縮約」「交換」と派生規則「カット」を用いています。つまり、論理結合子と疑問表現の保存拡大性を証明するために、シーケント計算を用いています。(ここではシーケント計算を適当に翻案して利用しているので、厳密に証明するには、問答論理のシーケント計算を定式化する必要があります。)

 シーケント計算の構造規則と公理(同一律)とカット規則が、他の表現の意味を変えないことを証明する必要があるでしょう。なぜなら、これらが他の表現の意味を変えるので、「∧」が他の表現の意味を変えないように見えている可能性が残るからです。論理結合子の利用が、他の表現の意味を変えないことの証明に、部分構造論理を使用しているのならば、部分構造論理が、他の表現の意味を変えないことを証明する必要があります。

 では、これ証明をどうやって行えばよいでしょうか。公理(同一律)や構造規則やカット規則やについては、導入規則と除去規則に対応するものがありません。したがって、拡大保存性についての、これまでの証明とは異なる証明の仕方が必要になります。次回は、これについて考えたいと思います。

27「何」と「なぜ」の導入規則と除去規則と保存拡大性 (20210825)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

「何」の導入規則と除去規則については、前に(23回)つぎのように説明していました。

疑問詞「何」の導入規則と除去規則は、「その花の色は何ですか」の例の場合、次のようなものです。

  「その花はバラです」┣「その花の色は何ですか」

  「その花の色は何ですか?」、Γ┣「その花の色は、赤です」 (Γは平叙文の列)

「どれ」の場合と同じように、除去規則は、問いを前提に含む推論、つまり問答推論の規則になっています。しかし、導入規則の方は、前提に問いを含んでいません。つまり、これは問答推論システムでの導入規則になっていません(22回での説明が不正確だったのです)。このような推論において潜在的にはたいているはずの相関質問を補うなら、例えば次のようになるでしょう。

  「開発中の新しい品種は、どんな花ですか?」「その花はバラです」┣「その花の色は何ですか?」

これに続けて導入規則

  「その花の色は何ですか?」、Γ┣「その花の色は、赤です」

を適用すると、次の推論になります。

  「開発中の新しい品種は、どんな花ですか?」、「その花はバラです」、Γ┣「その花の色は、赤です」

しかしこの結論は、最初の前提の問いの答えにはなっていません。つまり冒頭の問いに対する答えに至るには、ここでの結論を前提に加えて、それをもとに冒頭の問いに答える必要があります。

たとえば、それは次のようになるでしょう。

 「開発中の新しい品種は、どんな花ですか?」、「その花はバラです」、Γ、「その花の色は、赤です」┣「開発中の新しい品種は、赤いバラの花です」

冒頭の問いに対する答えに至りついたとき、この問答推論は完成します。そしてこの問答推論は、「その花の色は赤です」という前提があれば、「その花の色は何ですか?」という問いがなくても成り立ちます。なぜなら「その花の色は赤です」を答えとする相関質問は、他ものでもよいからです。例えば「その花の色は赤ですか?」「その花の色は、赤ですか黄色ですか?」「赤い花はどれですか?」「赤いものはどれですか?」などです。したがって、「その花の色は何ですか?」という問いや疑問詞「何」は、他の表現の意味に変化をもたらさないということです。これらは保存拡大性をもちます。

#疑問詞「なぜ」の導入規則と除去規則

これについては、前に(20回)に次のように説明しました(その時と少し表現が違います)。

<出来事の原因の「なぜ」の導入規則>

  「出来事pが起きた」┣「なぜ出来事pが起きたのか?」

<出来事の原因の「なぜ」の除去規則>

  「なぜ出来事pが起きたのか?」┣ 「Γ┣「出来事pが起きた」」

問答推論は、推論の結論を答えとする相関質問を、冒頭の前提として設定すべきです。「なぜ」の除去規則の結論は、命題ではなく推論であるが、前提には、その推論の相関質問が設定されているので、問答推論とみなしてもよいでしょう。しかし、導入規則は、結論の相関質問が前提にないので、それを明示化して補う必要があります。

 例えば、次のようなるでしょう。

  「出来事pの責任はだれにあるのか?」「出来事pが起きた」┣ 「なぜ出来事pが起きたのか?」

これと次の除去規則

  「なぜ」の除去規則:「なぜ出来事pが起きたのですか?」┣「Γ┣「出来事pが起きた」」

を連続適用すれば、次のようになります。

  「出来事pの責任はだれにあるのか?」「出来事pが起きた」┣ 「Γ┣「出来事pが起きた」」

冒頭の答えを得るためには、上の結論を前提に移して、そこから結論を引き出す必要があります。例えば、次のようになります。

  「出来事pの責任はだれにあるのか?」、(Γ→「出来事pが起きた」)、⊿┣「出来事pの責任はXにある」

この問答推論が正しいかどうかは、Γと⊿の内容に依存します。この問答推論が成立するには、前提Γ→「出来事pが起きた」が必要ですが、この前提を得るための相関質問は「なぜ出来事pが生じたのか?」であるとは限りません。他にも「Γが成り立つとき、何が生じたのか?」、「Γが成立するとき、出来事pが生じたのか?」「Γが成立するとき、出来事pが生じたのか、出来事qが生じたのか?」なのかなど、多くの問いに対する答えとなり得ます。つまり、「なぜ出来事pが生じたのか?」という問いや疑問詞「なぜ」を使用しなくても、この問答推論は成立します。したがって、「なぜ出来事pが生じたのか?」という問いや疑問詞「なぜ」は、他の表現の意味に変化を与えず、保存拡大的です。

行為の理由の「なぜ」、主張の根拠の「なぜ」についても同様の仕方で説明できるでしょう。

以上が、<論理的語彙と疑問表現が、保存拡大性をもつ>ということの説明です。

これは重要な論点ですので、次回は、以上の説明で十分であるかどうか、もう少し考えたいと思います。

26 疑問表現の導入規則と除去規則と保存拡大性 (20210824)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

まず、疑問詞「どれ」について説明します。

前に(19回)でのべた疑問詞「どれ」の導入規則と除去規則は、次のものでした。

  「どれ」の導入規則:「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」

  「どれ」の除去規則:「どれがFですか?」、Γ┣ 「aはFです」

この除去規則は、前提が問いで始まり、結論がその問いの答えとなっているので問答推論であり、問答推論における「どれ」の除去規則になっています。

 しかし、導入規則については修正が必要です。導入規則は、推論の前提に問いがありませんので、問答推論になっていません。そこで、その問いを解決するために、結論の問いを立てる必要があるような問いを、前提の冒頭に追加すると例えば次のようになります。

  ・「FでありかつGであるものがここにありますか?」「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」

  ・「Fであるものがあるのなら、それはGだろうか?」「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」

冒頭に追加される問い(暗黙的な問いだが省略されていたと思われる問い)は、この二つの例のように多様です。

 一般に、問答推論の結論が問いになるというのは、つぎのような場合です。

  Q2、Γ┣Q1  

この問答推論は、Q2を解くために、Γという条件下では、Q1の答えを求めることが必要である、あるいは有用である、という関係を表示しています。このような場合、Q1の答えA1をもちいてQ2の答えを得ることが可能になるということです。したがって、A1が得られたならば、つぎのような問答推論が成立します。

  Q2、Γ、A1、⊿┣A2 (Γ、⊿は平叙文の列を表示し、A2はQ2の答えを表示する)

通常の認識の順序からすると、問いQ2を立ててから、Q1を立てることになりますが、Q1を解決することは、Q2の解決の役に立つだけでなく、他の多くの問いの解決にも役立つことが可能です。したがって、「どれ」の導入規則の場合、冒頭に追加すべき問いを、(緩やかな仕方ですら)一つの形に限定することはできません。

 ここでは仮に、次の導入規則と除去規則を考えてみます。

  ・「Fであるものは、ここにいくつありますか?」「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」

  ・「どれがFですか?」、Γ┣ 「aとbがFです」

これらを連続適用すると「どれがFですか?」は除去され、次の推論になります。

  「Fであるものは、ここにいくつありますか?」「Fであるものが存在する」、Γ┣ 「aとbがFです」

しかし、これは問答推論の条件を満たしていません。なぜなら、前提にある問いと結論が、問いと答えの関係になっていないからです。この結論「aとbがFです」は、当初の問い「Fであるものは、ここにいくつありますか?」に答えるためのステップとして求められたものです。したがって、この後のプロセスとしては、この結論「aとbがFです」を前提に加えて、次の問答推論が行われるでしょう。

  「Fであるものは、ここにいくつありますか?」「Fであるものが存在する」、Γ、「aとbがFです」┣「Fであるものは、ここに二つあります」

 この問答推論では、「どれがFですか」という問いの答えが結論になっています。そしてこの問答推論は、もし「aとbがFです」という前提が与えられたならば、もはや「どれがFですか?」という問いを使用しなくても成立します(「aとbがFです」という前提は、「どれがFですか?」という問いを相関質問としなくても、「aとbがFですか?」や「どれとbがFですか?」や「aとどれがFですか?」や「aとbは何ですか?」などを相関質問に取ることも可能です)。従って疑問詞「どれ」は保存拡大的です。

 疑問詞「だれ」「どこ」「いつ」についても同じように説明出来るでしょう。

 決定疑問文という疑問の形式についての、同じように保存拡大性を説明出来ると考えます(ここではその説明を省略します)。

前に(19回)に疑問表現の導入規則と除去規則を説明したときに、取り上げていなかった疑問詞「何」と「なぜ」について次に説明したいと思います。

25「¬」の保存拡大性について (20210822)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

最後に「¬」を検討しましょう。

  ¬の導入規則:p→⊥┣ ¬p 

  ¬の除去規則:¬¬p┣ p

(の除去規則は直観主義論理では成立しないので、ここでは古典論理で考えます。)

これらは、それぞれ、次のようになるでしょう。

  ¬の導入規則:Q、p→⊥┣ ¬p 

  ¬の除去規則:Q、¬¬p┣ p

Qの具体例としては、次が考えられます。

  ¬の導入規則:?(p)、p→⊥┣ ¬p 

  ¬の除去規則:?(p)、¬¬p┣ p

¬pの相関質問は、場合によっては、?(¬p)という否定疑問文の発話であるかもしれませんが、しかし?(p)という問いの答えには、┣pである場合と┣¬pである場合があるので、?(p)が相関質問になる場合の方が多いでしょう。

 ところで、¬の導入規則と除去規則を連続して適用するにはどうしたらよいのでしょうか。それがうまく考えられません。ベルナップもダメットもブランダムも、論理結合子の保存拡大性を説明するときに、一般的に語るだけで、全ての論理結合子についての網羅的個別的に説明しているわけではないので、「¬」の保存拡大性をどのように証明できると考えていたのか、不明です。

それが分かれば、問答論理での「¬」の保存拡大性の証明に応用できるとおもうのですが、残念です。

 あるいは、「¬」については、

  ¬p=df p→⊥

という定義を用いて説明し、その保存拡大性は、「→」の保存拡大性から証明できると考えていたのかもしれません。そこで、私たちも問答推論における「¬」の保存拡大性を、問答推論における「→」の保存拡大性にもとづいて証明できると考えることにします。

残る課題は、疑問表現の導入規則と除去規則と保存拡大性の説明です。

24 問答推論における推論規則 (20210821)

カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

 前回述べた大きな欠陥は、導入規則と除去規則に関係しています。これまで論理結合子と疑問表現について、導入規則と除去規則を述べてきましたが、それらは、ゲンツェンの説明に依拠したものでした。つまり、論理結合子については、ゲンツェンの説明を踏襲し、疑問表現についてはそれを模倣し拡張して説明しました。しかし、ゲンツェンが示したのは、通常の論理学の自然推論系を構成するためのものでした。それに対して私がここでしなければならないのは、問答推論システムの自然推論系を構成するときに必要になる導入規則と除去規則です。したがって、これまで説明してきた導入規則と除去規則の見直しが必要になります。(おそらく論理的語彙と疑問表現の保存拡大性という結論を変える必要はないと思いますが、その時に依拠する導入規則と除去規則については修正の必要があるでしょう。)

 問答推論システムでは、通常の推論にはない疑問文を、結論の相関質問として、前提に加えることになります。

  Q、Γ┣p (Γは平叙文の列、pはQへの答え)

これが基本的な推論の形になります。従って、論理結合子の導入規則と除去規則も前に述べたものを修正する必要があります。前には次のように述べました。

  ∧の導入規則:p、r┣p∧r 

  ∧の除去規則:p∧r┣p

         p∧r┣r

これらは、それぞれ、次のようになるでしょう。

  ∧の導入規則:Q、p、r┣p∧r 

  ∧の除去規則:Q、p∧r┣p

         Q、p∧r┣r

Qの具体例としては、次のようなものが考えられます。

  ∧の導入規則:?(p∧r)、p、r┣p∧r 

  ∧の除去規則:?(p)、p∧r┣p

         ?(r)、p∧r┣r

この場合、∧の導入規則と除去規則を連続して適用するとどうなるでしょうか。

  ?(p∧r)、p、r┣p∧r 

  ?(p)、p∧r┣p

この二つを機械的に結合すれば、つぎのようになります。

  ?(p∧r)、p、r、?(p)┣p

結論pの相関質問?(p)を推論の最初に移します。

  ?(p)、?(p∧r)、p、r┣p

次に、p∧rが除去されたのだから、その相関質問?(p∧r)も除去すると次のようになります。

  ?(p)、p、r┣p

この推論は、冗長ではありますが、間違いではありません。そして、この推論は、「∧」を使用しなくても成り立つ推論です。したがって、「∧」は保存拡大性をもちます。

次に「∨」を検討しましょう。前に述べたのは、次のような規則でした。

  ∨の導入規則:p┣p∨r 

  ∨の除去規則:p∨r、p→s、r→s┣s

これらは、問答推論では、それぞれ、次のようになるでしょう。

  ∨の導入規則:Q、p┣p∨r 

  ∨の除去規則:Q、p∨r、p→s、r→s┣s

Qの具体例としては、次のようなものになるでしょう。

  ∨の導入規則:?(p∨r)、p┣p∨r 

  ∨の除去規則:?(s)、p∨r、p→s、r→s┣s

この場合、∨の導入規則と除去規則を連続して適用するとどうなるでしょうか。

  ?(p∨r)、p┣p∨r 

  ?(s)、p∨r、p→s、r→s┣s

これらを機械的に結合すれば、次のようになります。

  ?(p∨r)、p、?(s)、p→s、r→s┣s

結論の相関質問?(s)を推論の冒頭に移すと、次のようになります。

  ?(s)、?(p∨r)、p、p→s、r→s┣s

次に、p∨rが除去されたのだから、その相関質問?(p∨r)も除去すると次のようになります。

  ?(s)、p、p→s、r→s┣s

この推論も、冗長ではありますが、間違いではありません。そして、この推論は、「∨」を使用しなくても成り立つ推論です。したがって、「∨」は保存拡大性をもちます。

次に「→」を検討しましょう。以前には、次のように述べました。

  →の導入規則:p┣r ⇒ p┣r→p 

  →の除去規則:p→r、p┣r

これらは、問答推論システムでは、それぞれ、次のようになるでしょう。

  →の導入規則:Q1,p┣r ⇒ Q2,p┣r→p 

  →の除去規則:Q、p→r、p┣r

Qの具体例としては、次のようなものが考えられます。

  →の導入規則:?(r),p┣r ⇒ ?(r→p),p┣r→p 

  →の除去規則:?(r)、p→r、p┣r

この場合、→の導入規則と除去規則を連続して適用するとどうなるでしょうか。

  ?(r),p┣r ⇒ ?(r→p),p┣r→p 

  ?(r)、p→r、p┣r

これらを、機械的に結合すれば、次のようになります。

  ?(r),p┣r ⇒ ?(r→p),p、?(r)、p┣r

結論rの相関質問?(r)をそれぞれの推論の冒頭に移すと次のようになります。

  ?(r),p┣r ⇒ ?(r)、?(r→p),p、p┣r

次に、r→pが除去されたのだから、その相関質問?(r→p)も除去すると次のようになります。

  ?(r),p┣r ⇒ ?(r)、p、p┣r 

次に、後の推論の冗長な前提pを一つ除去すると次のようになります。

 ?(r),p┣r ⇒ ?(r)、p┣r 

この推論(より正確にはシーケント計算)も、冗長ではありますが、間違いではありません。そして、この推論は、「→」を使用しなくても成り立つ推論です。したがって、「→」は保存拡大性をもちます。

次に最後に残っている「¬」を検討したいと思いますが、これは少しむつかしそうなので、次回にします。

23 問答推論による表現の意味の明示化 (20210820)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

(前回の最後に「┣」の意味について論じると予告しました。『問答の言語哲学』では「┣」の意味について論じていませんでした。ゲンツェン、ベルナップ、ダメット、ブランダムが、論理的語彙として論じていたのは、論理結合子でした。彼らの議論では「┣」の考察が欠けていました。そこで「┣」の意味について論じると予告したのですが、通常の推論と問答推論では「┣」の意味が異なるので、問答推論の考察をもう少し進めた後に回すことにします。)

前回は、通常の推論による表現の意味の明示化について確認しました。ここでは、問答推論による表現の意味の明示化について説明したいと思います。

#まず疑問詞「何」の保存拡大性を説明します。

疑問詞「何」の導入規則と除去規則は次のようなものです。

  「その花はバラです」┣「その花の色は何ですか」

  「その花の色は何ですか?」、Γ┣「その花の色は、赤です」 (Γは平叙文の列)

この導入規則と除去規則を連続適用して得られる推論は、次です。

  「その花はバラです」、Γ┣「その花の色は、赤です」

この推論は、「その花の色は何ですか?」を使用しなくても可能なものです。したがって、「なに」は、保存拡大性を持ちます。

 しかし、この説明は、「何」の使用の一例を挙げて、それが保存拡大性をもつことを示しただけであり、一般的な証明になっていません。この例を少しだけ一般化すれば、次のようになります。

  「Xは性質Fをもちます」┣「Xの性質Fは、何ですか」

  「Xの性質Fは、何ですか?」、Γ┣「Xの性質Fは、aです」 (Γは平叙文の列)

この場合にも、「何」の保存拡大性が成り立つことが分かります。

これはまだ、一般的な証明として厳密なものとは言えないかもしれませんが、「何」の使用のほとんどの場合をカバーできると思います。

#次に「何」による意味の明示化を説明します。

  「べジマイトは何ですか?」、Γ┣「べジマイトは、オーストラリアの名物で、パンなどに塗って食べる黒い色のペースト状のものです」  (Γは平叙文の列)

この問答推論は、これは対象<べジマイト>の説明になっていますが、それと同時に、語「べジマイト」の意味の明示化にもなっています。

#最後に、問答一般による表現の意味の明示化を説明します。

疑問詞「どれ」の問答の例は次のようになります。

  「べジマイトはどれですか」、Γ┣「あのビンに入った黒いものが、べジマイトです」

これもまた対象<べジマイト>の説明であると同時に、語「べジマイト」の意味の明示化です。

つまり、問いに答えることは、問われている対象についての新情報の提供であると同時に、その対象を表示する言語表現の意味の明示化でもあります。問答によって、そこで使用されている言語表現の意味について新情報が得られるということがなくても、言語表現の意味の再確認が行われています。意味の再確認も、広い意味では意味の明示化に含めることができます。

 このような説明は、例による説明でしかありませんが、このように考えると疑問詞によって言語表現の意味を明示化できることは、ほとんど自明のことと思われます。しかし、このような説明には大きな欠陥があることに気づきました。それを次に説明します。

21推論による表現の意味の明示化とはどういうことか (20210818)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

前々回の最後に次のように言いました。

「以上によって、問答推論によって論理的語彙と疑問詞と疑問文形式によって、他の言語表現の意味が変わることはなく、それゆえに他の言語表現の意味を明示化できることを説明できます。また、問答推論よって事実を記述する言語表現の意味が変化しないからこそ、問答推論によって事実を解明できることを説明できます。」

これにはもう少し説明が必要でした。

ここでは、まずこれの前半部分、つまり「問答推論による表現の意味の明示化」のさらに一部「推論による表現の意味の明示化」について説明をしたいと思います。

 形式的な推論は、そのたの言語票の意味を変えません。言い換えると、その他の言語表現の意味にとは独立に、形式的な推論が成立します。例えばp∧r┣pという推論は、pやrの内容に関係なく成立するものであり、それゆえに、pやrの内容に影響を与えませんが、逆にその内容を明示化するのにも役立ちません。

 では、推論が、語の意味の明示化に役立つというのは、どのような場合でしょうか。ブランダムが挙げている例は、

  「雨が降るならば、道路が濡れる」

という推論です。これを条件法の文ではなく、推論の例として挙げています。これを推論らしく書き換えると次のようになるでしょう。

  雨が降る。┣ 道路が濡れる。

これは論理学で習うような形式的推論ではありません。しかし、私たちは、このようなタイプの推論を頻繁に行います。例えば「今日は水曜日だから、あの店は閉まっているだろう」とか、「彼は銀行員だから、仕事中はネクタイをしているだろう」などです。このような推論をブランダムは「実質的推論」と呼びます。例えば上の「雨」の推論は、「雨が降る」という文の除去規則を述べていると見ることもできますし、「道路が濡れる」という文の導入期測を述べていると見ることもできます。これらの推論は、それぞれの文についての正しい下流推論や上流推論を示しています。それゆえに、こうした実質推論は、文の意味や、その文で使用される語の意味を明示化しているといえるのです。

 しかし、この実質的推論では、論理的語彙は使用されていません。したがって、論理的語彙の保存拡大性のために、論理的語彙が意味の明示化に役立つという説明にはなりません。その説明のためには、次の例を挙げることができます。

  Aは動物であり、かつ、Aは理性的である。┣Aは人間である。

  Aは人間である。┣Aは動物であり、かつAは理性的である。

これは、「Aは人間である」の除去規則と導入規則であり、この文の意味の明示化になっています。これらは二つを合わせれば、語「人間」の通常の明示的定義になります。つまり通常の明示的定義は、論理結合子をもちいた語の導入規則と除去規則とみなすことができます。

 また明示的定義ができない語についても、その導入規則や除去規則を示して意味を明示化することができます。

  Aは、フジである、あるいは、紅玉である、あるいは、マッキントッシュである。┣ Aはリンゴである。

  Aはリンゴである。┣ Aはバラ科であり、かつ高木である。

これはそれぞれ「Aはリンゴである」の導入規則と除去規則です。これらによって「リンゴ」の意味を定義することはできませんが、明示化できます。(ちなみに、これらによって「リンゴ」の意味を定義できないことを理解しているということは、リンゴには、フジ、紅玉、マッキントッシュ、以外のものがあるかもしれないことを知っているということであり、バラ科の高木にはリンゴ以外のものがあるかもしれないことを知っているということです。つまり、上記の二つの実質推論以上のことを、「リンゴ」について知っているということです。BがAの定義項ではないと知ることは、Aについてのある推論(例えば「Aはリンゴである┣ Aは、フジである、あるいは、紅玉である、あるいは、マッキントッシュである」)を正しくないものとして理解するということであり、Aの意味理解の重要な要素です。)

 次は、推論が、ある表現の導入規則でも除去規則でもないけれども、その表現の意味の明示化になっている例です。

  AはBの西にあり、かつ、BはCの西にある。┣ AはCの西にある。

ここでは、論理結合子「かつ」の使用によって、「の西にある」という表現の意味が明示化されています。これは、「の西にある」という表現の導入規則でも除去規則でもありません。これは、表現が持つ推移性の明示化の例です。(反射性、対称性についても、同様の例を挙げることができます)。ただし、これもまた「の西にある」に関する実質的推論です。この推論によって、この表現の意味が明示化されていることは、「かつ」の保存拡大性によって保証されます。

 以上は『問答の言語哲学』(pp.65-68)で説明したことへの補足です。しかしそこでは「┣」の意味について論じていませんでした。それを次に考えたいと思います。

20 疑問詞「なぜ」の導入規則と除去規則 (20210816)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

前回、疑問表現の導入規則と除去規則を説明しましたが、疑問詞「なぜ」についての説明を忘れていましたので、それを補いたいと思います。『問答の言語哲学』第二章(pp120-121)で説明したことですが、「なぜ」の問いは、他の問いとは異なり、命題ではなく、推論そのものを答えとして求めている問いです。そして、この問いは次の三種類(出来事の原因を問う「なぜ」、行為の理由を問う「なぜ」、主張の根拠を問う「なぜ」)に区別できます。以下では、この三つ分けて説明します。

#出来事の原因の「なぜ」について

「p」が正しいことを知っていても、出来事pの原因を知らないので、それを問うことはあり得ます。

<原因の「なぜ」の導入規則>

  p┣「なぜpなのか?」

<原因の「なぜ」の除去規則>

  「なぜpなのか?」┣ Γ→p

<原因の「なぜ」の保存拡大性>

この導入規則と除去規則を連続適用すると、次の推論になります。

   p┣Γ→p

これは、pやΓを構成する命題の意味に関係なく成立しますから、原因の「なぜ」の問いがなくても可能な推論であり、原因の「なぜ」は保存拡大性をもちます。

#行為の理由の「なぜ」について

「p」(「p」は行為を表現する命題)が正しいことを知っていても、行為pの理由を知らないので、それを問うことはあり得ます。

<行為の「なぜ」の導入規則>

  p┣「なぜpなのか?」

<行為の「なぜ」の除去規則>

  「なぜpなのか?」┣ Γ→p

<行為の「なぜ」の保存拡大性>

この導入規則と除去規則を連続適用すると、次の推論になります。

  p┣Γ→p

これは、pやΓを構成する命題の意味に関係なく成立しますから、行為の理由の「なぜ」の問いがなくても可能な推論であり、行為の理由の「なぜ」は保存拡大性をもちます。

{この除去規則には、フレーゲ・ギーチ問題(真理値を持たない命題(「べき」「したい」などの概念を含む命題)の推論の妥当性についての説明の問題)に関係するので、ここで十分な説明のためには、フレーゲ・ギーチ問題の解決が必要です。これについては、別に改めて検討します。}

#主張の根拠の「なぜ」の問いについて

原因の「なぜ」や理由の「なぜ」とは異なり、主張の根拠の「p」が正しいことを知っているのに、主張「p」の根拠を知らないのでそれを問うということはありえません。なぜなら、根拠を知らなければ、「p」が正しいことが分からないからです。しかし、主張「p」について、「なぜ「p」なのか?」と問うことはあり得ます。それはどういう場合でしょうか。言い換えると、<「p」が正しいことを知っているが根拠を知らない>というのは、どういう場合でしょうか。それは、例えば次のような場合です。

  場合1:信頼する人から「p」が正しいと教えられた場合。

  場合2:「¬p」が他の命題と矛盾するので、「p」が正しいと考えるが、しかしその根拠を知らない場合。

(おそらくこれら以外の場合もあるでしょう。)

<主張の「なぜ」の導入規則>

  p┣「なぜpなのか?」

<主張の「なぜ」の除去規則>

  「なぜpなのか?」┣ Γ→p

<主張の「なぜ」の保存拡大性>

この導入規則と除去規則を連続適用すると、次の推論になります。

  p┣ Γ→p

これは、pやΓを構成する命題の意味に関係なく成立しますから、主張の根拠の「なぜ」の問いがなくても可能な推論であり、主張の根拠の「なぜ」は保存拡大性をもちます。

19 疑問表現の導入規則と除去規則(20210815)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

前回述べたように、推論は問いを前提します。本書では、問答推論的意味論では、(ブランダムの推論的意味論を拡張する仕方で)、発話の意味を理解するとは、正しい上流問答推論と正しくない上流問答推論を判別でき、正しい下流問答推論と正しくない下流問答推論を判別できることだと説明しました。この推論関係によって表現の意味を明示化できるのは、(ここでもまたブランダムの推論的意味論を拡張する仕方で)、問答推論を行っても他の語彙の意味が変化することはないからだと説明しました。推論をおこなっても他の言語表現の意味を変えないことは、(ブランダムが指摘したように)論理的語彙が保存拡大性をもつことによって説明できます。問答推論によって他の言語表現の意味が変わらないことについては、この論理的語彙に加えて、疑問表現が保存拡大性をもつことを示す必要があります。これについては、『問答の言語哲学』pp. 70-75で疑問詞の導入規則と除去規則とそれらの保存拡大性を説明しました。この説明は、問答推論的意味論や現在考察中の問答推論的認識論にとって重要なものですので、ここでその説明を少しだけ改善して、再説したいと思います。

#疑問詞の導入規則

<疑問文Qに含まれる疑問詞wの導入規則>

p┣ Q

(Qは疑問詞wを含む補足疑問であり、pは平叙文であり、pはQが健全であるための十分条件です。)

具体的には次のようになります。

<「どれ」と「だれ」と「どこ」の導入規則>

 「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」

 「Fである人が存在する」┣「だれが、Fですか?」

 「pが発生する場所が存在する」┣「pはどこで発生しますか?」

#疑問詞の除去規則

疑問詞を除去する最も重要でありふれた方法は、補足疑問文に答えることです。

<Qに含まれる疑問詞のwの除去規則>

 Q、Γ┣ r

(Qはwを含む補足疑問文であり、Γは平叙文の列であり、rはQの真ある答えです。)

もう少し限定した形式にすると次のようになります。 

 <「どれ」と「だれ」と「どこ」の除去規則>

「どれがFですか?」、Γ┣ 「aはFです」

   「だれが、Fですか?」、Γ┣ 「bは、人間でありかつFである」

「pはどこで発生しますか?」、Γ┣ 「cは場所であり、かつcでpが発生する」

補足疑問文「どれがFですか」の場合、導入規則と除去規則は次です。ある。

   「Fであるものが存在する」┣「どれがFですか?」

「どれがFですか?」、Γ┣ 「aはFです」

この二つの連続適用すると、次の推論になります。

   「Fであるものが存在する」、Γ┣ 「aはFです」

この推論は、補足疑問文がなくても可能な推論です。それゆえに、この決定疑問文は保存拡大性を持ちます。

#決定疑問文の保存拡大性

次に、決定疑問文の使用の保存拡大性を説明します。

「これはリンゴですか」の導入規則は次のようになります。

   「これは果物です」┣「これはリンゴですか?」

「これはリンゴですか?」の除去規則は次のようになります(Γと⊿は平叙文の列)。

   「これはリンゴですか?」、Γ┣「これはリンゴです」 

   「これはリンゴですか?」、⊿┣「これはリンゴではありません」

この二つを連続適用すると、次の推論になります。

   「これは果物です」、Γ┣「これはリンゴです」

あるいは、

   「これは果物です」、⊿┣「これはリンゴではありません」

これらの推論は、決定疑問文がなくても可能な推論です。それゆえに、この決定疑問文は保存拡大性を持ちます。

より一般的に説明すると次のようになります。

?pの導入期測として、

  r┣?p  (rは?pが正しい答えをもつための充分条件)

?pの除去規則として、

  ?p、Γ┣p

  ?p、⊿┣¬p

を仮定します。このとき、導入規則と除去規則を連続適用すると、次の推論になります。

   r、Γ┣p

   r、⊿┣¬p

これらの推論は、決定疑問文がなくても可能な推論です。それゆえに、この決定疑問文は保存拡大性を持ちます。

以上によって、問答推論によって論理的語彙と疑問詞と疑問文形式によって、他の言語表現の意味が変わるとはなく、それゆえに他の言語表現の意味を明示化できることを説明できます。また、問答推論よって事実を記述する言語表現の意味が変化しないからこそ、問答推論によって事実を解明できることを説明できます。

18 推論は問いを必要とする (20210814)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

#推論は問いを必要とする。

『問答の言語哲学』第一章の主張は、推論的意味論を問答推論的意味論へ展開することです。その根拠となるのは、「推論は問いを必要とする」という主張です。本書では、これを理論的推論と実践的推論の事例をあげて説明しました。しかし、一般的な論理的な証明は行いませんでした。その理由は、事例からその主張の正しさは明白になると考えたからです。しかし、やはり論理的な一般駅な証明が必要だと考えます。

 「推論は問いを必要とする」の証明は、次のような推論になるでしょう。

①ある所与の諸命題を前提とするとき、それらから論理的に必然的に帰結する命題、言い換えるとそれらの前提がすべて真であるときに必然的に真となる命題は、常に複数ある。

②複数の命題の中から一つを結論として選択することで推論が成立する。

③推論における結論の選択は、問いに答えることである。

ゆえに、

④推論は問いを必要とする。

この①②③を証明すれば、④の証明ができます。

#①の証明

①を証明するには、基本的な推論規則のそれぞれについて①が成り立つことを証明するしかないでしょう。例えば、→の消去規則は次の推論です。

   p,p→r┣r

この推論と同じ前提から、つぎのような結論を導出することが可能です。

   p,p→r┣rⅤs

   p,p→r┣p

   p,p→r┣p∧r  

   p,p→r┣pⅤr

   p,p→r┣pⅤs

他の導入規則や除去規則についても同様にして、多様な結論が導出可能です。

なお、論理結合子の導入規則と除去規則は、ゲンツェンが挙げているもの以外にも可能であるかもしれません。例えば、

   p,p→r┣p∧r

これを→除去の論理規則とし、これにp∧r┣rという∧除去の規則を適用して。

   p,p→r┣r

を導出された規則とみなすことも可能です。つまり、次の二つの推論のいずれを→の除去規則とすることも可能です。

   p,p→r┣p∧r

   p,p→r┣r

どのような基本導出規則の集合を設定するかは、論理的にはおそらく任意でしょう。

#②は自明であり、証明の必要はないでしょう。

#③の証明

証明1:本書での証明

「問いの答えを見つけるプロセスには、次の二通りがある。一つは、これまで念頭に説明してきたものであり、<ある問いに対する答えを見つけようとして、すでに知っている知識を前提として、そこから推論によって答えを求めようとする場合>である。もう一つは、これまで言及してこなかったものだが、<問いに対するある暫定的な答えないし答えの予想をえて、それを証明するために、それを結論とする推論を考える場合>である。この後者の場合には、推論の前提に先立って、まず結論が不確実なものとして与えられ、それを確実なものとして証明するために推論を構成しようとして利用できる前提を探すことになる。この場合にも、当初の不確実な命題は問いの答えとして想定されるのであって、<推論は問いの(確実な)答えを求めるプロセスである>といえるだろう。私たちが推論する場合としては、この二通りしかないだろう。」(『問答の言語哲学』p. 9)

上記をまとめると、私たちが推論するのは次の二つの場合です。

場合1:<ある問いに対する答えを見つけようとして、すでに知っている知識を前提として、そこから推論によって答えを求めようとする場合>

場合2:<問いに対するある暫定的な答えないし答えの予想をえて、それを証明するために、それを結論とする推論を考える場合>

もし私たちが、推論するのは、本当にこの二通りしかないのだとすると、どちらの場合にも、<推論は問いの(確実な)答えを求めるプロセスである>と言えるので、③が成り立つでしょう。ちなみに、場合1では、相関質問は補足疑問になり、場合2では、相関質問は決定疑問になります。

証明2:

「全ての選択は、問いに答えることである」が証明できれば、それにもとづいて③「推論における結論の選択は、問いに答えることである」を導出できます。「全ての選択は、問いに答えることである」は、次のように証明できます。

 「Aをするかしないか」というもっとも単純な選択の場合、例えば朝目覚めた時、「起きるか起きないか」の選択をします。迷い続けるとすれば、起きないことを選択していることになります。その意味で、朝目覚めた時、起きるか起きないかの選択は不可避です。この選択は「起きようか、もうすこし寝ようか?」という問いに答えることとして行われます。

 選択肢がより多い場合も同様です。たとえば<Aを選択するか、Bを選択するか、Cを選択するか>という選択肢からの選択の場合、この選択は、「Aを選択するか、Bを選択するか、Cを選択するか、何も選択しないか?」という問いに答えることになるでしょう。

補足:選択が可能になる条件は、次のようなことです。

  <ある事柄を選択することが可能であると信じること>

これは、次と同じです。

  <ある選択肢を理解していること>

ここで次の二つの関係を考えてみましょう。

①選択が可能であること

②選択が可能であると信じていること

②が成立しなければ、選択は不可能です。ゆえに②は①にかならず伴っています。しかし、逆に②が成立していても、①が成立しているとは限りません。例えば、私は、ケーキを一個買うことも二個買うこともできると信じているのだが、財布の中には一個かうお金しかない場合には、一個買うか二個買うかの選択はできません。

そして、重要なことは、<選択が可能であると理解するとき、選択は不可避になる>ということです。なぜなら、それらのどれも選択しないことも一つの選択になるからです。