44 これまでの振り返り(3) (20210228)

[カテゴリー:人はなぜ問うのか?]

前回(36、37)の振り返りのあと、茂木健一郎の『脳とクオリア』を紹介しつつ検討してきました。

彼は、まず「認識のニューロン原理」と「認識のマッハ原理」を導入し、それをもとに、心理的時間論(固有時の説明)、クオリア論、意識論を論じていました。このなかで最も重要な指摘は、「認識のニューロン原理」だと思います。

 脳の中での情報処理(認識や意識内容)は、すべてニューロンの発火によって行われるということです。視覚の刺激、聴覚の刺激、記憶、感情、思考、意図など、様々な種類の意識内容がありますが、脳の中にあるのは、ニューロンの発火だけであるので、これらの違いをニューロン発火のパターンの違いとして説明する必要があるという指摘です。私もこの原理に従って、意識や表象や言語や問答の発生の説明を追求したいと思います。茂木氏のこの本には、当時の研究状況からする限界もあると思いますが、このあとの仕事は私たちに残された課題だと考えます。

 現在のところ、バレットの情動論の紹介で言及したAndy ClarkやJakob Hohwyによる仕事、つまりディープラーニングの理論を、脳の研究に応用するというというアプローチが有用であるように思われます。そこで、ClarkやHohwyの研究の紹介と、それについての問答の観点からの検討を行いたいのですが、少し時間がかかりそうです。

 その間に取りあえず、並行して次の二つのことを考えて、みたいと思います。

第一は、サールが挙げていた6つの志向性を問答の観点から捉えなおすことです。

第二は、幼児の言語獲得を、二人の大人が行う問答の観察から説明すること、そして人類における言葉の発生を問答の発生として捉え、その際に、二人の他者の(問答ではない)発声のやりとりの観察から説明する、というアプローチの可能性を追求してみたいとおもいます。

 なお、第一の検討については、別のカテゴリー「問答推論主義へ向けて」に書き込むことにします。その後、またこのカテゴリーに戻ってきます。