05 第2章の見取り図 (2) (20201105)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

第二章の「2.2 発話が焦点を持つとはどういうことか」では、この問いに答えました。

発話が焦点をもつとは、発話の中のある部分に注目しているということです。同じ文の発話でも異なる部分に注目している発話は、異なる焦点を持つことになります。例えば

  「バイデンは、ペンシルベニア州で勝つだろう」

という文の発話は、次の三か所に焦点を持つことができるでしょう。

  「[バイデン]Fが、ペンシルベニア州で、勝つだろう」

  「バイデンは、[ペンシルベニア州]Fで、勝つだろう」

  「バイデンは、ペンシルベニア州で、[勝つ]Fだろう」

(ここで 「[バイデン]Fが」の場合、「は」を「が」に変えた方が自然な日本語になると思います。それは、日本語の「は」と「が」の違いが、焦点位置を示しているためだです。これについては、脚注で説明し、関連する拙論を示しました。)

次のように「(他でもなく)」を付け加えると、ニュアンスの違いが明確になると思います。ただしそれをそれぞれの焦点の前につけると、別の文になってしまうので、説明のための便宜上のこととになります。

  「(他でもなく)[バイデン]Fが、ペンシルベニア州で、勝つだろう」

  「バイデンは、(他でもなく)[ペンシルベニア州]Fで、勝つだろう」

  「バイデンは、ペンシルベニア州で、(他でもなく)[勝つ]Fだろう」

ところで、発話の焦点位置は、その発話を答えとする補足疑問の相関質問によって、明示できることが知られています。たとえば、次のように対応します。

  「誰が、ペンシルベニア州で勝ちますか?」

    「[バイデン]Fが、ペンシルベニア州で、勝つだろう」

  「バイデンは、どこで勝ちますか?」

    「バイデンは、[ペンシルベニア州]Fで、勝つだろう」

  「バイデンは、ペンシルベニア州で、どうなりますか?」

    「バイデンは、ペンシルベニア州で、[勝つ]Fだろう」

つまり、発話の焦点位置は、発話の現実の上流問答推論(相関質問と上流推論)を示しています。

ところで、このように焦点位置の異なっていても、同一の命題内容の発話であるならば、その真理条件は変わりません。それでは、焦点位置の違いは、意味の違いではないのでしょうか。たしかに問答推論関係で明示化される命題内容は同一です。しかし、現実的な問答推論は、焦点が異なれば、異なっています。そこで、同一の命題内容の焦点位置の違いは、命題内容の与えられ方の違いであると考えることを提案しました。

発話の焦点位置の違いは、このように問答上流推論の違いを示すだけでなく、問答下流推論の違いも示していることも示しました。私たちが、問いを立てるのは、より上位の目的のためです。その目的は、より上位の問い(理論的問いや実践的問い)に答えることとして理解できます。ここでの二つの問いの関係を「二重問答関係」と名付け、それを次のように表現しました。

  「Q2→Q1→A1→A2」

これは、問いQ2の答えを得るために、Q1 を立て、Q1 の答えA1 を得て、A1 を前提にQ2 の答えA2 を得る、という二つの問答関係の入れ子型の関係「二重問答関係」を表現しているものとします。

 ここで発話A1の焦点位置は、相関質問Q1によって決まります。Q1を前提とする上流問答推論によってA1がえられます。ところでのこのQ1を問うたのは、Q2の答えを求めるためでした。したがって、Q2とA1(と必要ならば他の平叙文)を前提とする問答推論によってA2を得ることになります。この推論は、A1の下流問答推論になっています。

 A1の焦点位置は、相関質問Q1によるものでしたが、Q1を設定するのは、Q2に答えるためでした。したがって、Q2は、A1の焦点位置を間接的に規定しています。つまり、A1の焦点位置は、A1の問答下流推論とも密接な関係にあります。

 なお、この2.2では、補足疑問(wh疑問)と決定疑問(yes/no疑問)の返答文の関係についても、詳細に分析しましたが、ここでは説明を省略します。