10 第4章の見取り図 (1) 問答論的矛盾 (20201111)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

 第1章で命題の意味を、第2章で発話の意味を、第3章で言語行為を考察してきました。命題の意味は発話の意味の一局面として成立し、発話の意味は言語行為の一局面として成立するものです。そして、第3章の最後に、言語行為は問答関係の不可避性によって成立すると説明しました。これを受けて、第4章では、コミュニケーションが成立するための条件、つまり問答関係が成立するための必要条件(超越論的条件)を考察しました。第4章は、4つの部分に分かれています。

 「4.1 問答論的矛盾の説明」では、問答関係が成立しなくなる特殊な矛盾関係「問答論的矛盾」について説明します。この矛盾を避けることが、問答関係が可能になるための必要条件(超越論的条件)となります。

 問答論的矛盾とは、例えば「私の言うことが聞こえますか?」「いいえ、聞こえません」というような問答関係の矛盾です。まず最初に、この矛盾が、従来「矛盾」関係として論じられてきた「論理的矛盾」「意味論的矛盾」「語用論的矛盾」とは異なることを説明しました。

 二つの文が「論理的に矛盾」するとは、たとえば「AはBである」と「AはBでない」という二つがともに真であることが論理的に不可能であるということです。二つの文が「意味論的に矛盾」するとは、例えば、「これは赤い」と「これは青い」の二つがともに真であることが、文の意味によって不可能であるということです。ある発話が「語用論的に矛盾」するとは、例えば「私は存在しない」という主張のように、主張するという発話行為と、主張される命題内容が、矛盾するということです。

 問答論的矛盾は、これらのどれでもありません。問答論的矛盾は、二種類「純粋な問答論的矛盾」と「混合型問答論的矛盾」に分けることができます。

 「純粋な問答論的矛盾」とは、例えば、次の問答の関係です

  「私の言うことが聞こえますか?」

    「いいえ、あなたの言うことは聞こえませ」

この問いも答えも、単独では問題のない発話です。しかし、この答えの発話が上の問いに対する答えとして発話されるなら、矛盾します。なぜなら、質問が聞こえなければ、それに答えることはできないはずだからです。

 したがって、この問いに対しては、「いいえ」という答えることは不可能であり、「はい」ということだけが可能になります。つまり「はい」という答えが問答論的に必然的なものになます。他にも次のような例があります。

  「あなたは日本語がわかりますか?」

    「いいえ、わかりません」

  「あなたは、私の質問を憶えられますか?」

    「いいえ、憶えられません」

「混合型問答論的矛盾」となづけたものは、例えば次のようなものです。

  「あなたは、誠実に私に話していますか?」

    「いいえ、私は誠実にあなたに話していません」

この質問への返答であるためには、返答は質問に対して誠実なものである必要があるので、「いいえ、私は誠実にあなたに話していません」という返答は矛盾します。つまり、この返答の内容は、これが質問への返答であることと矛盾します。その意味でこれは問答論的矛盾です。ただし、この返答は、「私は誠実にあなたに話していません」という発話として単独にとらえたときに、語用論的に矛盾しています。つまり誠実に主張するという言語行為と、発話の「命題内容」が矛盾するのです。この問答では、問いと答えが問答論的矛盾になっているだけでなく、答えの発話がそれだけで語用論的矛盾になっているので、このような問答論的矛盾を「混合型問答論的矛盾」と名付けました。ここでも「はい、私は誠実にあなたに話しています」と答えることが問答論的に必然になります。他にも次のような例があります。

  「どなたかいませんか?

    「いいえ、誰もいません」

  「あなたは何か主張していますか」

    「いいえ、私は何も主張していません」

  「私はあなたの命令に従うべきですか?」

    「いいえ、あなたは私の命令に従うべきではありません」

純粋な問答論的矛盾と混合型問答論的矛盾は、興味深い構造をもっており、本書では、より詳しい分析を行っています。純粋な問答論的矛盾と混合型問答論的矛盾のこれらの事例から、〈問答論的矛盾は、言語的コミュニケーションのための必要条件(超越論的条件)を示している、と言えるでしょう。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

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