[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]
前回で第1章から第4章の内容紹介が終わりました。
本書で採用した推論主義的アプローチの基本は、命題の意味をその上流推論関係と下流推論関係によって明示化するということにありました。本書では、この推論主義アプローチを、問答推論関係へ拡張し、発話の意味や言語行為にも展開することを試みました。
本書における問答の言語哲学の研究が、どういう意味を持つかは、そこからどのような下流推論が可能になるか、つまりそれを認識、実践、社会問題に適用するときに何が帰結するか、に依存するでしょう(とりあえずは、問答推論主義アプローチを認識に適用することが私の次の仕事になります)。本書に残されている課題としては、問答の観点から照応関係、文法構造を考察すること、問答論理学の形式化などがあるが、これらは、本書の議論にとっての上流推論を仕上げるという課題になるでしょう。
本書が成立するには、多くの先人の仕事、多く研究者や学生からの刺激が必要だったのですが、この関係は、本書成立の上流推論となっています。本書がどのような下流推論を持つことになるのかは、読者の方々がそこから何をくみ取ってくださるかにかかっています。本書の意味は、このような上流推論関係と下流推論関係によって明示化されることになります。
一つの命題の意味がそれだけで成立するのではなく、他の命題との関係の中で成立するのと同様に、書物の意味もまた一冊だけで成立するのではなく、他の書物との関係(インターテクスチャリティー)の中で成立します。作品の意味は、またジャンルを超え、媒体を越えて、他の作品と問答推論関係を持っています。人間の生きる意味もまた、他の人との関係の中で、また関係を越え、共同体を越え、時代を越えて、他の人々と問答推論関係のなかで構成され明示化されると思います。今後もこのように偏在する問答推論関係を分析したいと思っています。
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