19 アフォーダンスの知覚と発話の下流推論 (20210605)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

ギブソンは、行為や態度のアフォーダンスは客観的に実在し、それを直接に知覚すると考える(参照、ギブソン『生態学的視覚論』サイエンス社、152)ので、彼の知覚論は素朴実在論と親和的です。今回は、アフォーダンス論をもとに、動物の知覚と人間の知覚の関係、人間におけるアフォーダンスの知覚と発話の下流推論関係との類似性、について説明したいとおもいます。(アフォーダンスの説明については、カテゴリー「人はなぜ問うのか」の19回~22回の記述を参照してください。)

 動物の場合のアフォーダンスの例は次のようなものです。ミミズは、棲家である穴の中の乾燥を防ぐために穴の入り口に松葉を詰めますが、そのときに、針のようになった先の部分が穴から出ていくときに突き刺さらないように、松葉の元の部分から穴の中に引き込んでいきます。松葉は、ミミズに対して、中から引きこむことをアフォードしています。

 人間の場合の例は次のようなものです。郵便ポストは手紙を入れることをアフォードします。もちろんこれは、郵便ポストがどういうものであるかを知っている人間に対してのアフォーダンスです。

 このようなアフォーダンスは、知覚に続いて一定の行為が続くことを促しています。例えば、熊が渓流をみれば、鮭を捕まえるようにアフォードされます。熊が鮭を探すとき、鮭のいそうな渓流は、そこで鮭を探すことをアフォードします。そしてそこに見つからなければ、他の渓流が、鮭を探すようにアフォードするでしょう。それを繰り返して、鮭を見つけることになります。このとき、この一連の行為は、鮭の発見をゴールとする一つの探索行為を構成するということもできます。他方で、これは沢山の探索と(鮭がいないことの)発見の繰り返しでからなります。鮭が見つかるまでの沢山の探索の連鎖は、互いに対して目的手段関係にはなっていません。しかし、その一連の行為を一つの探索行為とみて、次のような欲求と行為の連鎖の中に位置づける時、それは目的手段関係を構成することになります。

  <鮭を食べたい→鮭を捕まえたい→鮭を見つけたい(探索)→鮭を見つける(発見)→鮭を捕まえる→鮭を食べる>

ところで、熊は、このような目的手段関係を意識していません。熊の行動は、(おそらく)刺激と反射行動の連鎖で出来ています。それらの行動は目的手段関係の連鎖になっており、その目的手段関係の連鎖は客観的に成立しているのですが、しかしそれは熊が理解していることではありません。しかし、人間はそれを理解できます。人間の場合には、鮭を見つけることは、様々な目的と結合しうるし、鮭を捕まえることも、様々な目的と結合しうるし、鮭を食べることも、様々な目的と結合することが可能です。人間の場合には、これらの行動を選択し、目的手段の関係において結合しなければ、この連鎖は成立しないのです。したがって、目的手段関係を意識していることが必要です。これに対して、熊の場合には、鮭を見つけるのは、捕まえるためであり、捕まえるのは食べるためであり、食べるのは生存のためです。そこには行為の選択の余地はありません。それらを意識的に結合する必要はないのです。

人間がこのように複数の行為を目的手段関係で結合することは、それぞれの知覚や行為に伴っている問答もまた結合しているということです。その結合の基本となるのは、二重問答関係です。人間の場合の知覚をめぐる問答は、単独の問答ではなくて、より上位の問いに答えるために行われ、二重問答関係を構成します。この二重問答関係は、時間的な(全体と部分の)入れ子構造になりますが、他方では論理的な(目的と手段の)入れ子構造になります。例えば、つぎのような二重問答関係になります。

  <Q2「どこで鮭を捕まえようか」→Q1「鮭はどこにいるのか」→探索→(鮭の)知覚→A1(知覚報告「ここに鮭がいる」)→A2「ここで鮭を捕まえよう」>

  <Q2「手紙を送るにはどうすればよいのか」→Q1「どこかにポストがないだろうか」→探索→(ポストの)知覚→A1「ここにポストがある」→A2「手紙をこのポストにいれるのがよい」>

動物の知覚も人間の知覚もアフォーダンスの知覚であり、(一定の条件がそろえば)一定の態度や行為が続くことになります。動物の場合には、その態度や行為は、走性、無条件反射、条件反射、オペラント行動、などであり、いわば自動的に連鎖していくのです。それに対して人間の場合には、それらの知覚や態度や行為は、それぞれ探索や問いに対する答えとして成立し、二重問答関係を構成します。二重問答関係(Q2→Q1→A1→A2)におけるA1からA2への推論はA1の下流推論ですので、アフォーダンスは、下流推論を促していると言えます。

次に、動物と人間の知覚や行為における概念について考えてみたいと思います。