[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]
(前回の最後に「┣」の意味について論じると予告しました。『問答の言語哲学』では「┣」の意味について論じていませんでした。ゲンツェン、ベルナップ、ダメット、ブランダムが、論理的語彙として論じていたのは、論理結合子でした。彼らの議論では「┣」の考察が欠けていました。そこで「┣」の意味について論じると予告したのですが、通常の推論と問答推論では「┣」の意味が異なるので、問答推論の考察をもう少し進めた後に回すことにします。)
前回は、通常の推論による表現の意味の明示化について確認しました。ここでは、問答推論による表現の意味の明示化について説明したいと思います。
#まず疑問詞「何」の保存拡大性を説明します。
疑問詞「何」の導入規則と除去規則は次のようなものです。
「その花はバラです」┣「その花の色は何ですか」
「その花の色は何ですか?」、Γ┣「その花の色は、赤です」 (Γは平叙文の列)
この導入規則と除去規則を連続適用して得られる推論は、次です。
「その花はバラです」、Γ┣「その花の色は、赤です」
この推論は、「その花の色は何ですか?」を使用しなくても可能なものです。したがって、「なに」は、保存拡大性を持ちます。
しかし、この説明は、「何」の使用の一例を挙げて、それが保存拡大性をもつことを示しただけであり、一般的な証明になっていません。この例を少しだけ一般化すれば、次のようになります。
「Xは性質Fをもちます」┣「Xの性質Fは、何ですか」
「Xの性質Fは、何ですか?」、Γ┣「Xの性質Fは、aです」 (Γは平叙文の列)
この場合にも、「何」の保存拡大性が成り立つことが分かります。
これはまだ、一般的な証明として厳密なものとは言えないかもしれませんが、「何」の使用のほとんどの場合をカバーできると思います。
#次に「何」による意味の明示化を説明します。
「べジマイトは何ですか?」、Γ┣「べジマイトは、オーストラリアの名物で、パンなどに塗って食べる黒い色のペースト状のものです」 (Γは平叙文の列)
この問答推論は、これは対象<べジマイト>の説明になっていますが、それと同時に、語「べジマイト」の意味の明示化にもなっています。
#最後に、問答一般による表現の意味の明示化を説明します。
疑問詞「どれ」の問答の例は次のようになります。
「べジマイトはどれですか」、Γ┣「あのビンに入った黒いものが、べジマイトです」
これもまた対象<べジマイト>の説明であると同時に、語「べジマイト」の意味の明示化です。
つまり、問いに答えることは、問われている対象についての新情報の提供であると同時に、その対象を表示する言語表現の意味の明示化でもあります。問答によって、そこで使用されている言語表現の意味について新情報が得られるということがなくても、言語表現の意味の再確認が行われています。意味の再確認も、広い意味では意味の明示化に含めることができます。
このような説明は、例による説明でしかありませんが、このように考えると疑問詞によって言語表現の意味を明示化できることは、ほとんど自明のことと思われます。しかし、このような説明には大きな欠陥があることに気づきました。それを次に説明します。