71 佐々木さんの質問への回答(1)(20220104)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

新年あけましておめでとうございます。今年もこのブログをよろしくお願いします。

佐々木さんからのご質問:

「ハーバーマスは、ブランダムの推論主義をとるとき「概念実在論」にいたると指摘し、その点を批判していました。入江さんが、ブランダムをフルパッケージで継承し、推論主義をとる時、「概念実在論」をとるのでしょうか。また入江さんはハーバーマスが「概念実在論」を批判することについては、どう考えるのでしょうか。」

合評会では、私は不確かな記憶に基づいて、ハーバーマスがブランダムの立場だと考える「概念実在論」は、数学のプラトニズムのように、概念のプラトニックな実在性、超越的な実在性を主張する立場だと理解して、回答しましたが、ハーバーマスのテキスト読み直して、これは間違いだと分かりましたので、まずそれを訂正したいと思います。

 ハーバーマスが「概念実在論」について語るときに念頭にあるのは、おそらくはブランダムがTales of the Mighty Dead(TMD)『偉大な死者の物語』の第6章でヘーゲルに「概念的実在論」を帰しているときの用法だと思われます。この言葉をブランダムはMaking it Explicit(MIE) でも、Articulating Reason(AR)でも用いていないからです。ブランダムがヘーゲルの『精神現象学』を論じた最近のA Spirit of Trust『信頼の精神』(2019)では、この概念はヘーゲルの観念論を理解するときの出発点になっている非常に重要な概念です。「概念実在論」の意味は、TMDでもMIEでも変わりないように思われます。

 ハーバーマスは、ブランダム自身も「概念実在論」を認めていると理解しているように見えます。私もおそらくはそうだろうとおもいます。(しかしブランダム自身が「概念実在論」をみとめているとしても、それをヘーゲルの概念実在論(これをブランダムは「質料形相論的概念実在論(hylomorphic conceptual realism)」と呼びます) とは異なるバージョンで考えている可能性があるとおもいます。今のところ、私には確実なことはいえません。)

 私自身は、(これがヘーゲルのものであれ、ブランダムのものであれ)「概念実在論」を採用しません。しかし、その理由は、ハーバーマスがそれを批判したのとは、別の理由です。

 以下つぎのことを書きます。

 まず「概念実在論」を紹介し、次にハーバーマスによるその批判を検討し、次に、私が「概念実在論」を採用しない理由を説明します。そのうえで、私がブランダムの推論主義をフルパッケージで継承すると言ったことと矛盾するのかどうかを考えたいとおもいます。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。