60 多重チェック問答関係 (20220208)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

問答関数実在論を仮定するとき、認識内容のチェックは、次のように行われることになると思われます。

問いQ1の答えを得ようとして、ある事実に問い合わせて、答えA1を得たとします。

この問答の正しさをチェックするには、別の事実に問い合わせて、答を得て、その答えを先のA1と照合することができます。もし二つの答えが一致していれば、A1の正しさをとりあえず正当化できたことになります。もし二つの答えが一致しなければ、少なくともどちらか一方を変更しなければなりません。

ただし、仮に一致したとしても、この正当化は完全なものではありません。さらに別の事実に問い合わせたときに得られた答えとA1が一致しなければ、どちらかを変更しなければならなくなるからです。このような仕方で、問答を繰り返すことによって、認識の正当化はより安定したものになるでしょう。

問いに対する答えの正しさ、あるいは問答の正しさをチェックするときに、私たちが問い合わせるものは、客観的事実とは限りません(ここで、客観的事実に問い合わせるとはどういうことか、についてもより明確に答える必要がありますが、それは後で行います)。多くの場合、私たちは、事実そのものに問い合わせるのではなく、すでに受け入れている仮説(一般的な理論、個別的な主張、信頼している伝聞内容、など)に問い合わせて答えを得る場合があります。また知覚表象に問い合わせて、知覚判断を答えとして得ることもあります。

このような複数の「問い合わされるもの」(問答関数)による問答関係のチェックを「多重チェック問答関係」と呼びたいと思います。

理論的な問いの場合の「問い合わされるもの」=「問答関数」には、次のようなものがあります(以下は暫定的な分類です)。

①問いの意味や論理

②他の信頼する命題に問い合わせて、その命題から問いの答えを推論しようとする

③仮説や法則に問い合わせて、答えを得ようとする。

④知覚表象に問い合わせて、答えを得ようとする。

⑤事実ないし感覚刺激に問い合わせて、答えを得ようとする。

ところで、ある問いを立て、その問いに答えるために、何かに問い合わせて、答えをえたとしても、多くのばあい私たちはその一回だけの問答で十分だとは考えません。なぜなら、私たちはその問答をチェックする必要があるからです。なぜなら、他ものに問い合わせて、どの問答をチェックしなければ、問答の正しさを正当化できないし、それに加えて、他のものに問い合わせてチェックできないとすれば、その答えを主張することができなくなるからです。それは、つぎのような理由のためです。

#指示の三角形と認識の三角形

 語「Xさんの車」の指示対象を確定にするには、同一対象を指示する異なる意味の表現「あの赤い車」が必要です。もしある単称名辞Aがある対象を指示するとしても、その対象を指示する仕方が他になければ、単称名辞Aが何を指示しているのか、その指示が成功しているのかどうか、は確認できません。したがって、指示は成立しません。ある対象の指示のためには、単称名辞が二つ以上必要です。指示のためには、指示対象と二つの単称名辞からなる三角形が成立する必要があります。

 それと同じことが命題pによる事実の表示の場合にも成り立ちます。命題pがどのような事実を表示しているのかを確定するには、同一の事実を表示する異なる意味の命題が必要です。もし命題pが表示している事実を表示する他の命題が存在しないとすると、その命題がどのような事実を表示しているのか、その表示が成功しているのかどうか、を確認できません。したがって、事実の表示は成立しません。

ある事実の表示のためには、少なくとも二つの命題がそれを表示する必要があります。二つ以上必要です。つまり、一つの事実と二つの命題からなる認識の三角形が成立する必要があります。

次回は、この「認識の三角形」についてより詳しく説明したいと思います。